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「アノ、すみません」
ようやく覚めたまどろみ。いつまでこうしているべきか悩んだ私は、三分くらいたった後で口を開いた。
棒読みで訊ねる。
「ここは一体どこですか?」
「…………え?」
ようやく、イケメンさんは私という存在に気が付いたようだった。
溢れてすすり泣きをしそうな涙がストップする。自分が抱いていた女の子が縁もゆかりもない女子高生だと初めて判ったのだ。
「ここ、お墓ですよね」
「……そうだ」
「どうして私は、こんな夜に墓地で寝ていたんですか?」
「……うん。ひとまず、状況を整理しよう」
正気に返ったイケメンさんは、どこまでも深く溜息をついた。
涙を拭い、ひどく残念そうにこちらを眺めている。その失礼な態度に逆に私は冷静さを取り戻した。
「私の名は、明槻海人」
「……八剣あざみ」
「やつるぎ? 珍しい苗字だね」
ぼうっとしたように話す男性だと思った。
一人称も同年代の高校生では耳にしない私、という主語。けれど、不思議とこの人にはよく似合っている。なんだか、大人って感じだ。
目の前の墓石には、倉田と刻まれている。故人への思い入れか裕福な家柄なのか、周囲のものより一際大きな墓だった。
「あざみって野花の名前か」
「……そんなこと、どうでもいいことです」
母が何を思って可愛らしくないこの名前を名付けたのか、私は知らない。あながちあり得そうなのは、嫌がらせなのかもしれないとさえ思う。
「明槻さん、あなたはここに、何をしに来ていたのですか?」
「見ての通り、墓参りだよ」
うんざりしたように明槻さんは話す。
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