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「仕事で遅くなったけど、命日だったからここに来た。そうしたら、何故か君がここで倒れていたんだ。言っておくけど、何もいかがわしいことはしていないし法に触れることはしていない」
「とか言って、実は私を浚った犯人さんだったりしません?」
「タイプじゃない。少なくとも、ずけずけ物を云う女は」
小馬鹿にした感じで明槻さんが笑った。
それなのに、どうしてだろう。彼の眼差しは食い入るようにこちらを見ている。
「口を利けなくして、その後何をするつもりだったですか」
「そういう問題じゃない」
「世の中には女子高生というだけで発情する輩がいると聞きます。記憶のない私が墓地に転がっていた時点で、あなたが一番怪しい人です」
「君、その性格でよく世の中渡っていけてるね?」
明槻さんの冷静な言葉に、私は呼吸を詰まらせた。
「こう考えられないか。君は夢遊病のようにここを訪れて、意識を失う。そこに、偶然通りかかった私が不幸にも君という未成年を保護しなくちゃいけなくなる」
「都合のいい話です、特にあなたにとって」
「でも案外、これが一番真実に近いかもしれない」
「…………」
私は困惑しながら、その語りを聞いた。
記憶を遡っても、どこか意識が混濁していて何があったのか思い出せない。ただ、先輩のことばかり考えてこんな場所まで道に迷ったのだとしたら、とんだ大バカ者だ。
私はへたりこんでいた石畳の上から立ち上がって男性から視線を逸らす。
「……ここの住所はどこですか」
「ああ、ここだったらB町の……」
そうして教えてもらった地理はA市にある私のアパートから隣町。どうやってこんな場所まで彷徨ったのかは知らないけれど、丁度手持ちのお金で帰れそうだ。
「帰ります、お世話になりました」
形ばかりに頭を下げて私は重い足を動かす。埃だらけになったカバンから砂を落とし、プリーツスカートの裾埃を払った。
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