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真っ暗になった夜更け。どこからか煙の匂いがした。
我が家のベランダから、声をかけられた。視線を動かすと、そこで煙草を吸っている母の彼氏がニヤニヤ笑っていた。
「こんな時間まで帰って来ないなんて珍しいじゃないか?」
砕けた物言いをしているが、四十過ぎの痩せぎすのオッサンだ。ギラギラに染められた金髪のてっぺんは髪が薄くなり、将来のハゲを予感させるものがある。
「部活で遅くなりました」
「嘘つけ、お前、部活なんて入ってねえだろ」
私は舌打ちしたいのを我慢する。
「川田さんは、どうしたんですか。ガソリンスタンドの夜勤は」
「あれなら馬券が当たったから辞めた」
私たち親子と同居しているフリーターの川田さんは、あっさりとそうのたまう。とてもマトモとは言い難いセリフに、こちらはぎょっとした。
「辞めたって……どうして!?」
「三万円ぐらい臨時収入があったから、その金で資格でもとろうかと思ってな。今度は占い師になろうと思う」
「占い師……」
この人の場合詐欺師の間違いではないのか。
「その資格は、いくらでとれるんですか」
「七万弱」
「足りてないじゃあ……ないですか」
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