第一章 最果てにて

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 大和は瞬きした。  いきなり光が射したのかと思ったが、違った。  大和の腕をつかんで引き止めてくれたのは、金褐色の髪をした少年だった。高校生にしてはずいぶんと派手な髪の色だ。教師に叱られないんだろうか。  髪の色だけじゃない。耳にピアスをいくつも嵌めている。左に三つ、右にふたつ。つい数えてしまった。 「どんくっせえなー。余所見してるからぶつかるんだよ」  他人事みたいに言ったのは、もうひとりの少年だ。 「野崎は人のこと言えないでしょ。……びっくりしたよね、ごめんね」  金褐色の少年はすまなさそうに眉を下げた。  このときになって大和は、少年が非常に整った顔立ちをしていることに気がついた。整っているだけではなく、人目を惹きつける華がある。他人どころか自分自身の顔にさえ興味のない大和が、つい視線を奪われてしまったほどに。  大和の体重を片手で支えただけあって、しっかりした身体つきだ。背も高く、均整の取れた体躯をしている。 「えっと、大丈夫? 放心してる?」  金褐色に途惑った口調で言われて、大和は己が相手をじっと見つめていたことにやっと気がついた。 「大丈夫」 「落っこちなくってよかった」  少年は目許をゆるめるようにして微笑んだ。まなじりにかすかな笑い皺が刻まれている。よく見ないとわからないくらいのものだが、きっといつも笑ってばかりいる人なんだろう。  いいな、と思った。どうしてみんな当たり前みたいに笑えるんだろう。どうして俺はいつまで経っても笑えないままなんだろう―― 「あ、野崎、この子のスーツケースを拾ってきてあげて」 「はあ!? なんで俺が拾わないといけないんだよ」  もうひとりの少年はぶつくさ文句を言いながらも、言われるままに階段を下りていった。素直なのか立場が弱いのか。  大和は金褐色に促されて二階へのぼった。 「ほらよ」  野崎と呼ばれた少年は、大和の目の前にスーツケースを置いた。少しへこんでしまっているが、荷物を入れるには問題なさそうだ。 「ありがとう」 「ありがとう? おい、チビ、そこはありがとうございます、だろ。おまえ、新入生だよな。俺は三年だぞ。立場をわきまえろ、立場を」  野崎は腰に両手をあてて、大和を睨みつけた。  彼もまた整った顔立ちをしているが、金褐色とはタイプが違う。癖のないすっきりとした顔立ちだ。  身体つきは細身で、黒いスキニーパンツのせいでよけいにほっそりして見える。身長は金褐色より少し低いくらいだ。 「こらこら、新入生相手にすごまないの。ごめんね、野崎は性格は悪くないんだけど、口と頭が悪くって」 「そうなんだ」 「って、おいこら! 誰が口の悪い馬鹿だ! おまえも素直にうなずくな!」  見た目だけなら爽やかそうに見えるのに、ずいぶんにぎやかな少年だ。
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