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「君の名前は? 俺は夏川。いちお立夏棟の寮長だから、これから一年間よろしくね」
にこりと気さくに微笑みかける。
寮長ということは、とてもそうは見えないが根はまじめな人なんだろうか。人は見た目で判断してはいけないとよく言うし。
「五十嵐」
「五十嵐くんか。下の名前も訊いていい?」
「大和」
「やまとぉ?」
ぷーっと盛大に吹き出したのは、夏川ではなく野崎だった。
「その弱々しい見た目で大和って。名前負けにもほどってもんがあるだろ、ほどってもんが。おまえのどこに大和っぽさがあるのか言ってみろよ」
面白い冗談を聞いたかのように、腹を抱えてゲラゲラと笑う。
大和は滅多なことでは腹を立てない。大抵のことはどうだっていい。が、初対面で名前を馬鹿にされては、さすがに少し面白くない気持ちになった。
「野崎、あーたね、人の名前を笑うなんていくらなんでも失礼でしょ。俺は似合ってると思うよ。いい名前だね、大和くん」
夏川は友人の無礼を取りなすように、背を少しかがめて大和の頭に手をおいた。顔が近くなり、笑い皺がはっきり見えた。触りたいと思ったのはどうしてなのか。
「名前」
「え?」
「名前は?」
「ああ、俺の名前? 馨だよ。夏川馨(なつかわ かおる)。あ、でも、下の名前で呼ばないでね。嫌なんだよね、女の子みたいで」
「綺麗な名前なのに」
思ったまま感想を口にすると、馨は少し驚いたように目を見開いた。まなじりの淡い皺を深めるように、くしゃりと笑う。
「なんだか口説かれてるみたいだね」
「口説いてない」
馨は冗談だよ、冗談と言って、明るく笑った。夏の光みたいな髪の色のせいだろうか。太陽を思わせる笑顔だ。
眉をゆるく寄せたのは、馨の言葉が不愉快だったからではなく、光をまともに浴びた気がしたからだ。
「おい、チビ、気をつけろよ。こいつは大の男嫌いだからな。うかつに迫ったりしたらぶん殴られるぞ」
「男がそういう意味で男を嫌いなのは当たり前でしょ。あ、ついでに言っとくとこいつは野崎。野崎伸(のざき しん)ね。まあ、覚えても役に立たない名前だから覚えなくていいよ」
「ひとこと多いぞ!」
馨は、「三時になったら、今日入寮した子たちを集めて寮の案内と説明をするから。放送がかかったら集合してね」
と言い残して、伸とともに階段を下りていった。
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