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平和な家庭
元警察庁祓魔課の想起 ソードマスターズ編 後編
あー。かーわーいーいー!
娘にメロメロなおっさんの声がしたという。
勘解由小路のベッドの上で、産まれたばかりの待望の次女、莉里をコロコロしていたのだった。
真琴は今、昼寝中だった。
「にゃあああああああ!」
莉里は目に見えて嬉しそうだった。
「そうか楽しいのか莉里は。姉の碧もブスッとしてぶーって言いながらも凄い楽しんでいた。よしもう一回だ」
「にゃはあああああああん!ん?」
気がついたら、姉が目の前で座っていた。
「じいいいいい」
碧はじいいいって言いながら、ジーっと妹を見つめていた。
「ん?碧も来たのか。二人揃うとかーわーいーいー!三田村さん!写真を撮ってやれ!天使ちゃんの揃い踏みだ!莉里、姉ちゃんにタオル生地のぬいぐるみ貸してやれ」
莉里は、姉にぬいぐるみを差し出した。
下々にくれてやるのよさ。姉ちゃん。
そう、莉里の目は言っていた。
碧はぬいぐるみを受け取り、妹にフルスイングした。
下々たあ何だこのトンチキ。
凄く偉そうな乳児がいた。
「ふしゃあああああああああ!」
何するのよさああああああああああああ!
「しゃあああああああああああああ!」
受けて立つぞ豆粒がああああああああ!
乳児が二人、物凄い霊気を発して睨み合っていた。
莉里の回りには小さな火の玉がチラチラ浮かび、碧の目は青く染まっていた。
やる気ならやってやる。首が座ったって立てないガキが生意気だ。
うわあああああああ!この不倶戴天の敵めええええ!何様なのよさ先に産まれたからってええええええええ!滅ぶのよさあああああああああ!嵐導丸を食らえええええええ!
「掴み合いの喧嘩か。ああベビー服が捲れちゃって。三田村さん!引き剥がせ!ああこっち来い莉里」
パパあああああああ!この蛇が構うのよさあああああああ!
ああ?!何だこいつ。っていうかパパはそっちを取るのか!そこは私の場所だああああああああ!
「びゃあああああああああああああ!」
「びゃあああああああああああああ!」
喧嘩はやめなよ2人共。父さああああああああああああん!
「びゃああああああああああああああああああああああ!」
「まさか全員泣き出すとはな。誰か抱っこひもを頼む。あああれを着よう。父ちゃんが揃って抱いてやろう」
モコモコのカンガルーの毛皮めいた上着を羽織り、勘解由小路はベッドに転がっていた。
「喧嘩すんなよお前達。俺の隣に来い流紫降。妹の面倒を見てやってくれ。あれ?妹だったよな?まあいいか父ちゃんは寝るぞ」
育児に疲れきった父親が真っ先に幸せな眠りについていた。
ああー。パパ大好きなのよさ。うにゅう。
何だ。妹の奴寝たのか。殴り足りなかったのにな。でもパパは好きだぞ私は。ぐー。
静かになって良かった。父さんカンガルーの胸でお休み。碧ちゃん、莉里ちゃん。
たまたま入ってきたトキは、親子カンガルーの寝姿の余りの可愛さにほっこりして、携帯のカメラを向けた。
微睡みの中で、可愛い娘の声が聞こえた。
「うにゅう。姉ちゃんを倒す力ゃ。嵐導丸」
寝ぼけた赤ん坊が呟くか。本当に可愛い娘だお前は。
ただなあ。欲しい理由が碧の打倒ってのは。
仲良くしてくれよ。俺のお姫様達。
今頃苦労してるんだろうな。ライルの奴なんかカリバーンへし折られるし。
スティレットの奴まで出てきたか。クイーン・エーゲ以来だが。
何で俺がここまで把握してるって?
そりゃあ戦ーーまあいいや。
どうなるのかねこの状況は。
ライルと御迦園の手下は今頃フェアリーランドか。
剣聖の斬敵にすら勝てないようじゃ先行きは多難だ。
ん?内蔵助?佐々?
ああそうか。ようやく揃うんだな。
フェアリーランドの双頭の王が。
どっこい俺は育児で忙しい。
好きに戦って勝つなり聖剣に負けるなりしろ。
何しろあいつは世界最速の男だからな。
止まったような超スローモーションの世界はあいつの独壇場だ。ただの人間に勝てるはずがない。
大体ルールがおかしいんだ。あんなもん。
俺がいれば永遠に負けんぞ。いい面の皮だぞ御迦園。
おっとこれ以上は。つい喋りすぎた。
「うにゅう。ネティヤバリェまじゅいにょパパ」
うん。そうだな莉里。俺は正直疲れた。
ここまで奪精されるとは思わなかった。
俺にしか抱けんな。こんな危険な赤ん坊は。普通の人間なら10回は死んでいる。
あいつは悪魔の精はあんまりお気に召さん。しばらくは俺がつきっきりで。
唯一メロメロにされてるのはトキだろうな。
あいつは狐だしな。莉里とはウマが合うだろう。
ぐっすり寝たいが音楽がない。
音群さんきっちり捕まえとけばよかった。
まあいいや。あいつのピアノを脳内再生して寝よう。
お休み。俺の宝物達。
これ以上ないほどの幸福感に包まれて、勘解由小路の意識は消失した。
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