第1章 大切な人

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 裕美は最初、その男性にあまり心を開いていなかったけれど、デートを重ねて、会話も重ねていくうち、大人な包容力に、段々心を許すようになっていったみたいだ。  俺は極力、相手とのデートにはついていっていない。 なぜなら、裕美がその男性との会話で笑っている姿を見たくないのもあるし、告白される瞬間なんて見たくないから、デートの日は、いつも裕美の部屋でお留守番。  遠くから見守っている。 ただ、最近気づいたんだけど、二人の雰囲気から、もう付き合っているんではないかと思うほど、距離感が近くなっている。  最初はお互いの呼び名が、裕美ちゃん、賢二さんだったのに、今はお互い呼び捨てになっているし・・・  あ~、もうすでに裕美の唇を奪われてしまったのか~。 自分の大切な何かを奪われたようで、正直落ち込んだ。 裕美の唇は、ずっと自分のものだったのに! 今ではあのプルプルの唇が愛おしい。  裕美と賢二の中が深まっていくほど、俺の心の中が空っぽになっていった。 俺の心に溢れていた愛が、零れ落ちるように・・・  裕美が幸せなのはうれしいはずなのに。 一番喜んで応援してあげなければいけないのに。 このままだと、自分自身を見失いそうで、もう見守っていくのは限界なのかもしれない。  それにもう見守る理由さえなくなったようにも感じる。 本気で天に逝く方法を探そう。  そんな風に考えていた。だけど、しばらく見守っているうち、おかしな事に気が付いたんだ。 クリスマスとか、バレンタインデーとか、ホワイトデーなど、大事な記念日は、必ずといっていいほど裕美と会おうとしない。  記念日は大切な人と過ごしたいはずなのに。 なんか変ではないか? 賢二は、裕美に何か隠しているんじゃないだろうか? 俺の心の中で、日々モヤモヤしたものが大きくなる。  裕美はおかしさに気付きながらも、その事を突き詰めようとはしない。 信じたくないけれど、それだけ賢二を好きになっているのかもしれない。
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