第1章 大切な人

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 泣いていられないと思い無造作に涙をぬぐう。 それでも涙は止まらなかった。 もう過ぎ去った事なのに、どうしてもありえない事を想像してしまう。 なんでこんな事になってしまったのだろう?  タイミングが少しずれていたら、あの場に行っていなければ、こんな事にはなっていなかった。 そう思うけれど、運命はそう簡単に変える事を許さない。 だから、私が生まれた時に、この運命は決まっていたんだとも思う。 でも人は考える事ができるので、もしを考えてしまう。  それは現実を受け止められないでいるからだと思う。 なんで亡くなったのに、この世界にいるのかはわからない。  私の存在はこの世界に意味があるのだろうか? ただ未練が残り、彷徨ってしまっているだけなんだろうか? 神様は残酷な事をすると思う。  こうなったけど誰も恨んでいないし、裕美と恋愛できてとても幸せだった。 その時間だけでも生きていてよかったと思う。 何もなく死んでしまう人生より少し華やかだったから。 生きてく上でパートナーがいるのといないのとでは幸せの感じ方が違ってくる。  寂しさを埋めてくれる。 お互いの足りない所を補ってくれる存在がいた。 だからそれだけ幸せだったんだと思う。  この幸せがもっと長く続くと思っていた。 そういう意味では亡くなった事は残酷な気だ。 ただこれが運命だとしたら、いつかは受け入れなければいけないとは思う。  空を眺め、何も話さない空に語りかける。  
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