第1章 大切な人

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 裕美がこんなにも俺の事を想ってくれていたと思うと、胸がジーンと熱くなり、愛されていた事を実感する。 生きている時にはあまり感じなかった。 感じていなかっただけなのかもしれない。  裕美との色々な思い出が頭によぎる。 学生時代の事、二人で言った遊園地や旅行、色々なところに行って、裕美と見た景色。 あの時の裕美の横顔はホントに綺麗だった。  人は失って初めて大切な存在に気付くというけれど、私の事をホントに大切に想っていて、今さらながらその事に気付き、心から感謝の気持ちで一杯になった。  同時にこれからの未来を幸せにできなくて、申し訳ない気持ちになる。 男としては、大切な人を守れない時ほど情けなさを感じる事はないと思う。  私が亡くなっても、この世界に留まっているのは、ただ単純にまだ魂が解放されなくて天へいけないのか、すさまじい未練が残っているのかはよくわからない。    確かに裕美の事はまだ好きだし、この世界に未練がないっていったら嘘になる。 ただそれは生きていた時の未練であって、亡くなってからの未練ではないような気がする。  だから魂が残るほどの未練があるかと言えば、そこまでではなくて、むしろ亡くなった普通の人と変わらない位じゃないかと思う。 でも、実際には本人が自覚してないだけで、この世界に恐ろしいほどの未練、執着があるのかもしれない。  そう思うと、人間っていうのは恐ろしい生き物のような気がする。
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