第1章 大切な人

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 特技は、鍵がかかっていても勝手に人の家に入れること。 誰にも監視されず、外に自由に出歩ける事。 だから気付かれないで、風呂場も覗く事ができる。    ためしに、裕美がシャワーを浴びている時に覗いた事がある。 その時は、風呂場のドアから頭がすり抜け、裕美がシャワーを浴びる姿が見えた。 でも少し罪悪感があったので、それ以降はやっていない。 だから、他の女性の裸を覗いた事はない。  この能力を知ってから、覗きたい気持ちがゼロではなかったけど、裕美に悪いのでやめた。 今の私の能力は、世の男性にとっては夢のようだろう。 ただ、誰にも存在を認められていないので、話し相手もいないし、一人ぼっちで退屈になってくる。  だからといって、天への行き方がわからないし、まだ裕美をほっておけないので、裕美の部屋に居候させてもらっている。許可は得ていないので、勝手にいるだけなんだけど・・・  最近心のどこかで、裕美には、本当の意味での支えが必要なんじゃないかと思うようになってきた。  最初は、俺以外の男性が、裕美の彼氏になるのは受け入れられない感じだったけれど、裕美を見ていると、それではダメなんじゃないかと思うようになっていった。  私はもうこの世界にいないのだから、俺の事は早く忘れて、裕美には、新しい人生を歩んでもらいたい。 そう思えるようになっていった。 だから、誰か裕美を幸せにしてくれることを願っていた。  そうはいっても、あまり早く彼氏ができてしまうと堪えてしまう。 心は複雑なのだ。  ただ、まだ裕美には男性の影が見えなかった。
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