【本日の御予約】 紫乃原みちる 様 ②

5/5
前へ
/37ページ
次へ
「うん。ある程度の話は凛くんから聞いてるよ。でもまぁ外でするような話じゃないし、とりあえず中にお入りよ。凛くんにコーヒーでも淹れて貰おう」  少し考えれば当たり前のことなのに、店の中に凛介が居るのだとわかってホッとする。いくらか緊張が解けたところで、あたしは手招きに従って店の中に入ることにした。 「ああ、そうだ。面倒だし先に自己紹介を済ませておこうか」  と、先に店の戸を潜った女性が思い出したように振り返った。  趣のある店の外見に女性の袴姿が凄く映えていて。  その光景はどこか現実離れしていて。  思わずあたしも足を止めて――見蕩れてしまう。  それから彼女は左手を胸に当てながら、 「私は浦面摩子(うらおもてまこ)。この店の店主だよ」  これがあたしと浦面摩子さんの――出会い方だけはなんてことのない――ファーストコンタクトだった。
/37ページ

最初のコメントを投稿しよう!

108人が本棚に入れています
本棚に追加