【本日の御予約】 紫乃原みちる 様 ③

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「そういえば、まだ名前を聞いてなかったね」  凛介が部屋から出ていくのを見送ると、さっそく浦面さんの声がした。  ああ、そうか。さっきは自己紹介をしてもらっただけで、名乗り返すのを忘れていた。 「紫乃原(しのはら)です。紫乃原みちる」 「みちるちゃんか。なるほどね、だから『みっちゃん』なんだね」  まるでナゾナゾが解けた小学生みたいに浦面さんは愉快気に言う。  それから何を思ったのかソファから腰を上げ、ずいっと身を乗り出してあたしの顔――正確にはをじっと見つめて、にやりと笑った。  ……やっぱりだ。  たったそれだけで、彼女の雰囲気がガラリと変わる。 「みちるちゃんは良いをしてるね」 「えっと……。瞳、ですか?」 「あら、知らない? 人間の唇と瞳はをしているんだよ」  初耳だ。  とりあえず「そうなんですか」と返すと、浦面さんは今度は不満げに唇を尖らせた。元が美人なので、コケティッシュな仕草にも全く違和感がない。 「おやおや、反応だね。――嘘だよ嘘。唇と眼が同じ形な訳ないだろう。用途が全く違うんだからね」 「……、」  ふと、凛介の言葉を思い出した。  確かにちょっと変わった人だ。凛介の言葉を借りるなら、すんごいひねくれ者と付け加えるべきか。  ともあれ、意図の掴めない会話が終わると、浦面さんはソファに腰を戻した。いよいよ本題が始まる雰囲気が漂ってくる。
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