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【本日の御予約】 紫乃原みちる 様 ①
「みっちゃん。それはもういつもの事で片付けちゃダメだよ」
窘める風に、うんざりするような正論を凛介は吐き出した。
ありがたくないお小言をほとんど聞き流しながら、あたしは緩慢な動きで椅子に座る。眼前のテーブルには「あとは食べるだけですよ」とでも主張するかの如く、完璧なまでに朝食が用意されていた。
「なにか飲む?」
「……水」
はいよ、と声がして凛介が冷蔵庫に向かう。その背中を、あたしは呆っと眺める。
架条凛介とは高校からの付き合いになる。
整った目鼻立ちに、一八〇に届きそうな高身長。趣味と特技が料理とあって、髪は常に短く揃えられており、誠実な雰囲気がにじみ出ている好青年だ。
偶然か、はたまた教師の配慮か。地元の進学校で三年間同じクラスになり続け、果てには同じ大学に合格した。
そしてそれを機に凛介の方から告白された。
他にも魅力的な女子はたくさん居ただろうに。
よりにもよってどうしてあたしを選んだのか。
いろいろと思うところはあったものの、断る理由を思いつかず、あたしは告白を受け入れた。
以来、こうして同棲生活をしながら甲斐甲斐しく世話を焼いてくれている。
……けれど。
あたしの何が凛介を惹きつけたのか、あたし自身が一番わかっていない。
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