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念のためにもう一度、携帯に目を向ける。
うん、間違いない。ここが凛介のバイト先だ。
この店も古民家をリノベーションしているらしい。
しかし『小さな民宿』とは聞いていたけれど――ここまでこじんまりしているとは思わなかった、というのが正直な感想だった。
幾らか庭が広い気がするものの、建物の大きさはその辺にある一軒家とさほど変わらない。
「悪いけど今日はやってないよ。うちは完全予約制なんだよ」
「――っ!?」
完全に意識の外から声がして、両の肩がビクンと跳ねた。
鼓動が一気に早まったのを感じながら声の方へ視線を移すと――いつの間にか、店の前に女性が立っていた。
……綺麗な人だ。
ぱっと見た感じ二十代後半くらい。
すらっと伸びた鼻筋に、三日月を思わせる細い目。仕事用と思われる薄化粧が、逆に素材の良さを引き立てている。
しかし最も目を惹かれたのは漆黒の髪だった。さらりと背中を流れる長髪が腰に近い位置で一本に束ねられている。
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