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「ねえいろは。私達もバイトしない? それで、玲奈さそって宮古島行こうよ。いいと思うよー。青い海、白い砂浜、広がる空。きっと楽しいよ」
「私、今日、本当はピザ食べたかった」
「はあん!?」
全く関係ない話をはじめたいろはに、うっかり声を荒げてしまった。
「あんたねぇ……じゃ頼めばよかったじゃん。欲しいものって、ちゃんと注文しないと出てこないんだよ」
「でも、頼めなかったの。頼まなかった」
「じゃあ、しょうがないんじゃない?」
いろはがこくり頷いた。
空を見上げる。
「宮古島にもサイゼリヤあるかしら」
「あるんじゃない? 知らないけど」
多少の投げやり感には目を瞑って欲しい。とりあえず、あとでググろうと思った。
いろはが笑った。
あっさりした、前向きな笑顔だった。
「そうね。アサヒも、色んなバタバタがひとまずおさまったみたいだし。他の人も誘っちゃう? みんなで民宿に泊まっても迷惑じゃないわよね」
「よーし、いいね、いいと思う。アサヒの民宿をめっちゃ忙しくさせてやろう」
この時、私の、私達の頭からは、玲奈がバイトを増やした理由(旅費だとか、遊行費だとか)も、なぜアサヒがこっちに戻ってきたのか(つまりマリン系のイベントが減りつつある事とか)も、きれいさっぱり吹き飛んでいた。
でも、全然問題なかった。
いろはが一歩前に出た。後を追う。
無料のバイト雑誌を求めて、二人一緒に、冷たいアスファルトをぐんぐん歩く。
いろはが振り返った。
一緒に笑い合った瞬間、頭の隅で、ピンポーンというあの音が、微かに鳴った。
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