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2 いろはとの電話
いろはは、私や玲奈と同じ高校の同級生で、同じ大学へと進学した友人の一人だ。
弓道の家の娘で、容姿端麗で勝気な努力家。努力の甲斐あって、成績は良い。
長い黒髪を一つにまとめ、袴姿できりりと弓引くいろはの所作は、同姓でも惚れ惚れする。
弓を静かに放つ瞬間、身の内にぐっと押しとどめた闘志を支配する様は、何度見ても圧巻だ。
「玲奈、アサヒといつ遊ぶって?」
「ん? えっと確か、十二月二日。××駅前のサイゼリヤで待ち合わせしてご飯してからどっか行くんだって」
「ふうん……」
「……もしもし、いろはさん? 何するつもり?」
「出歯亀よ」
電話の向こうで、いろはの嫣然と微笑む気配がした。
艶やかな声が妙になまめかしい。
「天音もいこう?」
「えっと、でばかめ、で一緒に行くって、要するに、私達もサイゼリヤに行くってこと?」
「だって、玲奈の話だけじゃ結局何があったか分かんないじゃない。
事の真偽を確かめるには、偶然を装ってばったり鉢合わせがてら「あらおめでとう、ついに付き合ったの?」って玲奈の前で聞くしかないでしょ。アサヒに」
「え、アサヒにぃ!?」
おもわず素っ頓狂な声が出た。
「あの昼行灯から、そんな即座に、ぱっとした答えが返って来るかなぁ?」
「何ならアサヒに矢文でも放ちましょうか? 私、外さない自信あるわよ」
「あれ? いろは、怒ってる?」
「だって、わざわざ宮古島まで好きな人に会いに行ったのに。告白されたかどうか、はっきりしないなんて!」
どうしよう。
このままいったら、多分、アサヒが死ぬ。色んな意味で。
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