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あー、とか、うー、とか呻いていると、ころころと、鈴を転がすような声でいろはがわらった。スマホからうっすら漂っていた怒気がすうっと霧散していく。
「嘘よ。見るだけ。何か本当に大丈夫なのか気になっちゃったから、こそっと見るだけ見に行きましょうよ。まあ、玲奈がねぇ、あのよくわからない朴念仁を好きになっちゃったんだから、しょうがないわよね」
「ほんとにね」
大丈夫だけど大丈夫じゃない玲奈には、私達に、しょうがないなぁと思わせる何かがある。
それだけは間違いなかった。
*
十二月二日。
決戦当日の昼過ぎ。
私といろはは××駅前のサイゼリヤの前で落ち合った。
いや、全く以て私達が勝手に盛り上がっているだけなんだけど。
本人があずかり知らぬところの、完全なる下種なお節介なんだけど。
「玲奈って確か、午前中、書店のバイトでしょ。終わり時間から考えたら完璧なタイミングだわ」
いろはが微笑む。ほころんだ口元を、白い真珠みたいな犬歯が小さくいろどっている。
「……とりあえず、私はほっとしましたよ」
「あら、なぜ?」
「いろはが弓矢を置いてきてくれたから」
直後、いろはが黙って鞄を探った。
出てきたのは玩具の弓矢。ペラペラのゴムの弦と、ちゃっちいプラスチックの矢。矢の先にはゴムの吸盤。
「あっれー? いろはさん? 我々、見に来ただけでは?」
「ふふっ、天音、見てて」
まさか。
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