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「玲奈、バイト掛け持ちしてるの? 何で? た、大変でしょ?」
「え? 何で急に……」
「生活苦しいの? お金が足りないの?」
だったらわたしがお金をあげる、などといろはが口走る前に、ここは私の出番だろう。
「あー玲奈ごめん、いろはは、ちょっと今、何らかのゾーンに入ってて。優しい目で見てあげるといいと思うんだ」
「いつものことじゃん。今更何を。大丈夫、大丈夫」
「因みにさ、何でバイト掛け持ちしてんの? やっぱお金?」
どさくさに紛れて、聞いてみた。
玲奈が気恥ずかしそうに笑う。
「うん。どうせ、また行くし」
瞬間、玲奈の視線が、私から、私達から、ずれた。
玲奈の視線を追う。ガラスのパーティションとソファ席の向こう。人影が動く。視線を玲奈に戻す。
──あ。大丈夫だ。
どうしてそう思ったのかは、自分でもよくわからなかった。
アサヒを見て浮かべた玲奈のやわらかな笑顔は、私が知っていたこれまでと少し違った。
何が違うのか、うまく言葉にできない。
ただ、玲奈にとって大事なものが満たされたのだと、伝わってきた。
そうか、と何かが腑に落ちた。この二人は、やっと、互いに満たし合う事を、許し合えたのかもしれない。
「よかったね、玲奈」
「え?」
「幸せそうな顔しちゃって」
「煩いなあ。ほら、二人とも、ご注文は?」
「じゃあ、ティラミスを一つ」
「──もう一つよ……」
ちょっと地獄へ逝ってきたぜ、みたいなハードボイルド的にくだを巻く何かもうよくわかんないとにかく絶妙な声が、目の前の女から聞こえた。
いろは、しっかり。涙目とか最早怖いから。
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