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村の広間で行われた焚火の上を歩く苦行。暑さに悶え耐える男達の中、ニケだけは涼しい顔で歩いて見せた。
そして湧水の滝壺。寒さで震える男達の中。ニケだけは平気な顔でいつまでも水に浸かっていた。
「神父様。これはニケで決まりですね」
「後は飛ぶだけですな」
村長と神父が話す中、水から出たニケは丘に上がりイカロスと飛ぶ用意をしていた。
「ああ。次でいよいよおしまいね」
「ああ」
風吹く丘の上。嬉しそうな娘の髪を彼は悲しげに拭いていた。
「私は永遠の命をもらえるのよ?ああ、神様」
「ニケ。お前は永遠の命をもらって何をしたいんだ」
「何を言い出すの」
彼はじっとニケを見つめた。
「いいかい?自分だけが生き残っていても。知り合いはみんな死ぬんだ。お前はこの世で一人きりになるんだぞ」
「今更何を言い出すの?ああ、そうか」
ニケは醜い彼の手を握った。
「私がいなくなるので寂しいのね?あなたには私しか話し相手がいないものね」
「……」
「お前が私を思っていたのは知っていたわ。でもね、それは無理よ」
「ニケ」
「私は天使になって。永遠の命を授かるのよ。さあそこを退いて」
しかし。イカロスはぐっとニケの手首を掴んだ。
「痛い?何をするの」
「お別れだよ……」
そう言って彼は嫌がるニケの両手を縛った。そして自分で作った羽を持ち崖に立った。
眼下の村人達は、ニケと思って見上げていた。
「イカロス!止めて!」
叫ぶ彼女に彼は笑顔を見せた。
「……これだけは試していないんだ。君を行かせる訳には行かない」
「イカロス」
「幸せにおなり」
彼はそう言って空に入っていった。
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