1 空を飛べたら

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村の広間で行われた焚火の上を歩く苦行。暑さに悶え耐える男達の中、ニケだけは涼しい顔で歩いて見せた。 そして湧水の滝壺。寒さで震える男達の中。ニケだけは平気な顔でいつまでも水に浸かっていた。 「神父様。これはニケで決まりですね」 「後は飛ぶだけですな」 村長と神父が話す中、水から出たニケは丘に上がりイカロスと飛ぶ用意をしていた。 「ああ。次でいよいよおしまいね」 「ああ」 風吹く丘の上。嬉しそうな娘の髪を彼は悲しげに拭いていた。 「私は永遠の命をもらえるのよ?ああ、神様」 「ニケ。お前は永遠の命をもらって何をしたいんだ」 「何を言い出すの」 彼はじっとニケを見つめた。 「いいかい?自分だけが生き残っていても。知り合いはみんな死ぬんだ。お前はこの世で一人きりになるんだぞ」 「今更何を言い出すの?ああ、そうか」 ニケは醜い彼の手を握った。 「私がいなくなるので寂しいのね?あなたには私しか話し相手がいないものね」 「……」 「お前が私を思っていたのは知っていたわ。でもね、それは無理よ」 「ニケ」 「私は天使になって。永遠の命を授かるのよ。さあそこを退いて」 しかし。イカロスはぐっとニケの手首を掴んだ。 「痛い?何をするの」 「お別れだよ……」 そう言って彼は嫌がるニケの両手を縛った。そして自分で作った羽を持ち崖に立った。 眼下の村人達は、ニケと思って見上げていた。 「イカロス!止めて!」 叫ぶ彼女に彼は笑顔を見せた。 「……これだけは試していないんだ。君を行かせる訳には行かない」 「イカロス」 「幸せにおなり」 彼はそう言って空に入っていった。
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