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3-1
「蜜原さん、ではあと三十分ほどしたら個人指導室で──」
──よろしくお願いいたします、と一礼してわたしはとりあえず小ホールの席で書きかけの、いや、序盤から書けないから書けてもいない小説のファイルを開いた。
今の七瀬玲さんの落語の感想や、たぶん同じことを考えているのだろうけど、ここの小ホールの次の演目がはじまるまで、小説の続きをみんなが書いている。
わたしは小ホールの席を最前席から見上げた。
かなりの人数がまだ席に居て、なにか書いている。
この世界では、小説がある意味コミュニケーションの道具として成立している。ほぼ誰もがいつも小説を書いている。
まだ小学生ぐらいの子や、お年寄りまで。そしてみんな、いい意味でおしゃべりだ。年配の方が過去を語りだすと、それこそ小説のネタにしようと皆が群がり、ブラインド・タッチでノートパソコンにそれぞれの文体で蔵うのだ。
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