3-1

1/1
前へ
/12ページ
次へ

3-1

 「蜜原さん、ではあと三十分ほどしたら個人指導室で──」  ──よろしくお願いいたします、と一礼してわたしはとりあえず小ホールの席で書きかけの、いや、序盤から書けないから書けてもいない小説のファイルを開いた。  今の七瀬玲さんの落語の感想や、たぶん同じことを考えているのだろうけど、ここの小ホールの次の演目がはじまるまで、小説の続きをみんなが書いている。  わたしは小ホールの席を最前席から見上げた。  かなりの人数がまだ席に居て、なにか書いている。    この世界では、小説がある意味コミュニケーションの道具として成立している。ほぼ誰もがいつも小説を書いている。  まだ小学生ぐらいの子や、お年寄りまで。そしてみんな、いい意味でおしゃべりだ。年配の方が過去を語りだすと、それこそ小説のネタにしようと皆が群がり、ブラインド・タッチでノートパソコンにそれぞれの文体で(しま)うのだ。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

34人が本棚に入れています
本棚に追加