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 「文学的精神異常ともおっしゃってたわね、あれは解決しましたか」  いえ、とだけ応えた。  たとえば、と自分の作品、「カルナヴァル」の冒頭を見せる。        小倉奈々子は柿ピーナッツをに      しながらミクターズのバーボンをぐいぐい(あお)      っていた。    「悪くない書き出しだと思うけど」七瀬さんはそこで口を挟もうとしたわたしを遮って言葉を続ける。  「まず小倉奈々子という固有名詞、これが嘘くさく思えるのでしょう、そして約束のように続く助詞の『は』の機能(ファンクション)、あなたは『書けない』んじゃないの、文学から批評の世界へとちょっと軸足がぶれているのかもしれないわね」  そうだ、わたしにはたくさんの小説の中から最良なのを選んでそれを短編集にまとめられたら……という気持ちもある。隠れた良作というのは人が考えている以上に多い。  「蜜原さんは、きっと『再現前性(ルプレザンタシオン)』の深淵を覗いちゃったのよ」  どういうことですか?
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