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 「小説の言葉というのは、なにを書こうと『いま・ここ』を保証するわね?」  ──ええ。確かにそうです。この書き出しの「死んだ指が語る」もそういう感じがするんです。なぜこれが存在し得るのだろう、と。  「存在しちゃだめ?」と七瀬さんが微笑んだ。「その『いま・ここ』性、つまり『再現前性』には多くの作家が気づいていません。気づいたら書けないし、書けてもカフカやモーリス・ブランショ、あるいは二十世紀中葉(ちゅうよう)の『ヌーヴォー・ロマン』のような世界になるわ」  ──読んだことはあります。  「蜜原さんはああいうのも書いてみたいと思います?」  ──いや、読むだけで書くのは無理でしょう。  「ふつうそうよ、でもその『再現前性』を意識して書くのはとても勉強になると思う」
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