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少女はグルーの汗を拭き終わると、布を丁寧に畳みエプロンのポケットにしまうと、くるりと背を向け、扉の外に出て行った。
「父さん、あの人、気がついたわよ」
「うむ、お館様に報告してくる。メリエラ、このことは他の誰にも言うなよ」
「わかってます」
扉の向こうから落ち着いた男と少女の会話が聞える。
やがて、それが遠ざかると同時に、グルーの意識も再び深い底に落ちていった。
次にグルーが目覚めたとき、メリエラと呼ばれていた娘の横には、ふたりの男がいた。
ひとりは30代半ばくらいの理知的な印象の男、そしてもう一人は、一見質素ながら、質の良さげな織りのローブを身につけた老齢の男性であった。位の高さが伝わってくる出で立ちである。
まず口を開いたのは若い男であった。
「グルー、私はカロ。この館の管理人であり、ガザリアの書記官だ。だが怖がらなくていい、お前のことはガザリアに報告する義務は私には無い。この館はガザリアからは治外法権なのでな」
「治外法権……なぜ?」
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