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だからその日もグルーは、花の上に体を横たえ、膿んだ右目を陽にさらしながら、ただ流れる雲を見ていた。うららかな雲の流れも、自由な鳥のさえずりも、グルーには別にうらやましいものでは無く、ただそこの在るだけのものだった。花の香りがむせかえる。グルーは自然で唯一好きなものが在るとすれば、この花の妖艶な香りであった。その香りに包まれている時だけが、自らの生を感じる瞬間だった。
いい匂いだ。だがこの匂いもいつしか感じなくなり、やがて自分は平原に沈む……だがしかたない、自分の人生はそういう定めなのだ……。
ところが、その日は様子が何か違った。花がざわめく。亡霊たちがとまどいうろたえる。
なぜなら、この平原を数人の男の群れが渡ってきたのであったから。
「ナカマダ…コイツハナカマダ…」
「トオセ……コイツラハナカマダ……」
亡霊たちの声に耳を澄ますと、そんな戸惑った囁きが聞える。仲間?ということは、このものどもも、グルーと同じ病のものなのか。その証に、亡霊たちは手出しをしない。健康なものなら、即座に泥の中に引き込んでしまうのに。
「小僧がいたぞ!」
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