第二章 隻眼のグルー

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「……そ、そうだ」 「なら生かしてはおけんな」  グルーの声はどこまでも冷たい。外からは古びた家から助け出された患者たちの歓声が響いてくる。 「……俺は恨んでいるんだ。この世をな。俺は13歳の時にこの病に罹った。そのときには家族全員が病持ちだったさ。だから、村の人々は俺の一家をそりゃあ疎んじたものさ。旅商人に大金を払って偽の薬を掴まされたり…まぁ、とにかく世間は冷たかったよ」 そして、グルーは青黒い膿のたまった眼で続ける。 「そして15の時だ。村人はついに俺の家に火を付けやがった。つまりは、俺ら一家は皆殺しさ。俺の5つ下の妹も焼かれ死んだ。平原に逃げ出せたのは俺だけだった」  静かなグルーの口調が村人には却って恐ろしかった。そしてその厳しい視線も。それは村人たちに向けられたものではなく、過去の憤怒の記憶に向けられたものと分かってはいても。 「……俺は、病の俺らを疎んじた奴らを赦さない。だから絶対、俺は病の者による、病の者のための国を作る」  そしてきっぱりとこう続けた。 「……これは俺の、この世への復讐だ」 「た、助けてくれ、仕方なかったんだ、村の者に感染(うつ)させるわけには……」
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