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神経質なのは、それだけ今回の大会に懸けていたからだ。
だから、私は隣で照明チーフが機嫌悪くなる度に、自分のミスを責めていた。慣れない自分が嫌で、何度も台本の演出ト書きを読み直して、練習した。
照明チーフのミル先輩は必ず私に付き合ってくれた。どんなに厳しくても怖くても。だから、嫌いにはなれなかった。
嗜める部長と、言い返しながらも弾む声のミル先輩、並んで見ると、とてもお似合いだ。
「キーマ、今日の照明のタイミング。バッチリだったね」
すると、急に、部長が私の方を見た。
「射撃シーン。バックライトの切り替えからの、赤バック。タイミング完璧」
部長、つまり主役がラストに脱獄が見つかり射撃されているシーンのことだ。
舞台後方下に配置した照明を、秒每オンオフを繰り返すことでスピード感を出し、流れる血は背景を赤一色にして表現した。演出はもちろん照明チーフのミル先輩。本番の照明切り替えは、私がアシストする形で連携した。
「今日が一番良かったよ。演じてて、すごく高揚したというか。やりやすかった! ありがとうな、キーマ」
蜂の巣で最期を迎える主役を演じたとは思えない、すっきりした顔つきで部長は自分のグラスを掲げる。
すると、隣から、
「本当によく頑張ったよ!! キーマ、県大会もビシビシいくよ!」
相変わらず語尾のニュアンスに震えそうだけど、濁った野菜ジュースレモンティー煎茶のグラスを、ミル先輩も掲げている。
満面の笑みを浮かべた部長と照明チーフに囲まれて、私の胸の奥が、しゅわしゅわと泡を立てて鳴る。
生姜の香り立つカプチーノのグラスを掲げて、私は先輩方のグラスとぶつけた。
「お疲れ様でしたーーー!!!」
憧れの二人と演劇初心者の私とで乾杯する。普段、部活動でなかなか無い組み合わせだ。発声練習よりも、お腹の底から声が出た。
「ミル先輩、まずいです。ジンジャーエールカプチーノ!」
「あはは、最高! 私のもまずーい」
「ところで部長、それは?」
交わした先を見ると、部長の手にはどす黒い中に鮮やかな赤と小さな気泡が昇る液体の入ったグラスがあった。
「ローズヒップティーとエスプレッソと白ブドウスカッシュ」
血の色をしたグラスの前で、部長はご機嫌だ。
「爽やかなんだか、エグイんだか!」
周りのお客さん達の目も気にせず、この演劇部の一員であることを噛み締めながら、思い切り私達は笑った。
*終劇*
追記 組み合わせは個人のお好みです。お好きな組み合わせがあった方、失礼しました。
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