ドリンクバーにおける場合の数 nCr

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 先輩達が全力で楽しんでいるのを、ぼんやり眺める。外の暑さとサイゼリヤ店内の冷房の差で、制服の下の汗が一気に冷やされていく。  県大会出場は悲願だった。高3になる前に部活を引退しなければいけないという暗黙のルールがあるから、先輩達にとっては最後の夏。  嬉しくて仕方ないんだろう。  私はというと、まだ入部4ヶ月程度の高1で、勝敗が出る大きな大会は初めてだった。  中学校に演劇部は無かったので完全な初心者。照明係として、先輩の足を引っ張っていないかドキドキしながら本番を駆け抜けた。  軽い虚脱感に包まれていると、 「お疲れ様! 無事に乗り切れたねー」 「先輩! お疲れ様でした!」  私を指導してくれた高2の照明係のチーフが、グラスを持って隣に座った。  照明係チーフは、睫毛の長い女性らしい顔つきを平気で壊すぐらい、眉間に皺を寄せる神経質な先輩だ。少しでもサス(スポットライト)のタイミングや位置がずれるだけで、「やり直し」と止めていた。  その先輩が、今は二重の大きな瞳でニコニコ全開だ。  良かった、認められたのかと安心しているのも束の間、 「キーマはこれね。ちょっと飲んでみ」 「それって……えっと、カプチーノと」 「ジンジャーエールと炭酸水。刺激がありそうでしょ?」  ちなみに『キーマ』とはカレーの一種ではない。下の名前が『まき』、こと私の芸名だ。  演劇部員たるもの、芸名を持つべしと先輩方から名付けるのが伝統だそうだ。私、キャスト希望じゃなく照明担当なんですけどね。   改めて、サイゼリヤのメニューにキーマカレーが無くて良かった。  案の定、同じ1年生で音響係のさくらちゃんこと『サフラン(※さくら→さふら→サフラン)』ちゃんは、隣のテーブルでパエリアを食べる羽目になっている。まあ、本人は不満もなさそうだからまぁいいか。
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