暴食祭司と癒しの歌姫

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 ようやく馬車の動きが止まり、イルテは麻袋から出され、更には馬車から降りることを命じられた。既に日は沈み掛け、遠くの山々の峰が白く霞んでいる。もうじき夜が来るのだろう。クルスのいた教会から浚われてから約半日といったところか。  何かないかと周囲を見回しても、辺りは草の根一つない荒野と、ところどころに岩山が地面に突き刺さっていた。  森や山の中ならまだしも、身一つしかないイルテが馬を持つ連中の元から逃亡することは不可能だ。 (……諦めるしかないのか)  落胆するイルテを見て、連中の一人――ガタイのいい男がククッと笑い「残念だったな」とイルテを嘲笑う。  イルテがガタイのいい男を睨みつけようとした時、もう一人の横長の男が、イルテの腕を縛っている紐を引っぱり無理矢理歩かされた。 「来い」 「………」  イルテは横長の男に、馬車の横にある洞穴の中へ連れて行かれる。  恐らく、荒野に点在する岩山には、こういった洞穴がいくつもあり、旅人や商人の野営地になるのだろう。 洞穴はそこまで広くはなく、大人十人なら雑魚寝できる程度には設けられていた。 イルテを連れてきた横長の男は再び洞穴の外へ行き、代わるようにガタイのいい男がニヤ付いた笑みを浮かべながら近付いてきた。 「……お前がステラか」 「!」 「やはりな、俺の勘は当たっていたようだぜ」  表情だけで知られてしまった。字名を呼ばれ、動揺してしまった。  イルテが強く睨むと、より嬉しそうな笑みを浮かべられた。反吐が出る。  そんな二人のやり取りを不思議そうな顔で、横長の男は眺めていた。 「なあ、あんちゃん。その小僧の名前が何だって言うんだよ?」 「あん? お前、知らずにこの仕事を受けたのか?」  信じられないとばかりに驚くガタイのいい男に、横長の男は戸惑いながらも頷く。 「あ、ああ。だって、あんちゃんが“割のいい仕事”があるって言うもんだから受けただけで、確かにこのガキ一人捕まえるだけで金貨30枚になるのは嬉しいけど、可愛い顔してるし、かなりいいところのボンボンか、爵位持ちの子供とかなのか?」 「馬っっ鹿、違ぇよ! むしろ逆だ逆! こいつはなぁ、男娼なんだよ、だ・ん・しょ・う!」 「! 男娼」 「お前みてえな下っ端がお目に掛かることすらできないほど値が張る奴なんだよ。遊郭でいうと太夫に近い扱いだな。水揚げは十五の時だっつーのに、僅か1年足らずでそこまでの地位に登り詰めるなんてすげぇ実力者だろ? そんな金のなる木を連中がそう簡単に手離すわけがないだろ?」  感心する横長の男を目尻に、ガタイのいい男はイルテの顎を掴み、顔を近付けた。鼻先が擦れそうなほど近い男の口から異臭を感じて、イルテは眉を潜めるもガタイのいい男は気にした様子もなかった。 イルテの直感がマズいと警報を鳴らす。 「ついでに、身体と顔にさえ傷がなけりゃあ、何発だってヤって良いってお達しがきてやがる。普段は一刻だけで金貨10枚の奴を金貨30枚でヤり放題なんだぜ? 受けねぇ訳ねーだろう」 ガタイのいい男はその場でイルテを押し倒し、下紐を緩めながら下品た笑みを浮かべた。高機嫌になるガタイのいい男とは対照的に、横長の男は「え~~」と不満気な声を上げる。 「んだよ、何か文句あんのか?」 「いや、文句はないけど、俺はやっぱり女を抱きたいなぁ」 「馬っっ鹿、素人が。出来る男は両刀じゃなきゃいけねぇんだよ。文句があんなら、その辺で見張りでもしてろ!」 「うへぇい」 横長の男は洞穴の入り口の方へ行き見えなくなった。 「へへへ。じゃあ、頂くとしようかね?」 「んーーーーーっっ!!」 必死に声を上げるも猿轡をされた状態では声にもならない。クルスから貰った服を破かれ、素肌を晒される。見知らぬ男のゴツい指先がイルテの胸を這い、イルテは背筋が凍る想いがした。  嫌で嫌で堪らないから逃げ出したのに、また地獄の日々を味わわなければいけないのか。  恥辱と屈辱の感情が混ざり合い、目尻に涙を溜めるも、相手を悦ばせるだけだった。
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