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見知らぬ筋肉もとい男性 2
隠れることも何もできず心の中でそう叫んだところで、
「紗名ちゃん、大丈夫か!?」
勢いよく自室のドアが開かれた。
“紗名ちゃん”
叫ばれた名前に張り詰めていた緊張が解ける。
紗名ちゃん、そういう風に名前をちゃん付けで呼ぶ男の人なんて、ほとんどいない。
不審者じゃなかった。どうやって入って来たのかは分からないけど、やっぱり瞬兄だったんだ!
ホッとして、顔を向けて、でも。
「ひ」
視界いっぱいに映ったのはガタイの良い、鍛えられた肉体の見知らぬ男性で。
瞬兄じゃない!
「やぁ――もごっ!」
「頼む、悲鳴は勘弁してくれ、通報される!」
悲鳴を上げようとしたら、大きな手が口を覆った。口どころか頬も顎も覆う勢いの大きな手。その手に歴然と力の差があることを教えられて、恐怖で頭が真っ白になる。
「っもごご、むぐ! だ、だれ」
でも、抵抗をやめたらおしまいだ。くぐもった声で何とか漏らすと、相手は急に何だか悲しそうな顔をした。
「誰って――――紗名ちゃん、オレのこと忘れたのか?」
知り合いにこんなステ筋肉(ステキな筋肉の略)がいたら、忘れようがない。これは私の知らない筋肉もとい男性だ。そうに違いない。違いないけど、その悲しげに下がった目元には何だか覚えがあるような。
……今日、瞬兄が来るんだったよね。直前まで私だって、インターホンを慣らしたのは瞬兄って思ってた。
紗名ちゃんって私のこと呼ぶのは、瞬兄とイトコくらいなもので、イトコはこんなムキムキではないから、いやでも瞬兄だって全然ムキムキではなかったよ!?
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