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用意周到? 5
「あの、避妊……」
してもらわなきゃ困る。いくら何でも私だってそこまでゆるふわじゃない。
でもこの状況、絶対持ってないよなというのも分かってた。
え、だってお隣さんにお土産渡す状況でそんなもの持ち歩く?
お財布の中にみたいなのも聞くことあるけど、あれって衛生上宜しくないらしいし、私はもし出て来てもお断りしたい。
今、すごくすごく身体が熱を余してる。一秒だって止めたくない。
けど、本能の訴えを私の理性は聞き入れなかった。
「紗名ちゃん」
でも、瞬兄が何だか複雑な顔をする。
え、このまま押し切ったりしないよね? そんなこと、まさか。
「ごめん」
やだ、謝らないで。それは何に対する謝罪?
「決して最初からそういうつもりがあった訳ではなかったと言うか、いや、結局そういうつもりがどこかにあったんだけど」
私の足は床に着いてなくて、背中はソファにべったり預けられてて、前方は瞬兄の身体で塞がれていて。
「決して同意なく襲おうとかそういうつもりはなかった。これは本当に。ただ、万一、万一こういうチャンスが巡って来たらと」
どこにも、逃げ場なんてないのに。
「しゅ、瞬兄、」
ごめん。
瞬兄はもう一度そう謝って、そして。
「――――あるんだ」
よく分からない白状をして、背後のローテーブルからビニール袋を引っ張って来た。
あ、さっき買って来てくれた湿布の入ってた袋。そこから。
「え」
出て来た。アレが。つまり、事を続行できるモノが。
「……………………引いたよな。うん、ホントごめん」
引いたと言うか、びっくりしたと言うか。
「自分でも自分にどん引きだよ。本当に。舞い上がって、妄想と感情だけが先走って、こんなの拗らせた思春期男子より大人である分性質が悪い」
その場の雰囲気に流されてではないんだなって、気付く。さっき言ってた“紗名ちゃんだからだ”って言葉が、本当に私だからなんだなって。
瞬兄、私のこと、そういう風に見てた? いつから? ずっとってこと?
優しくて、頼りになるしっかり者の瞬兄が、舞い上がって、気持ちが先走っちゃったの?
「ごめん。なかったことにしてくれ、忘れてくれとは言わない。というか、無理矢理押し切っておいて、言える立場じゃない」
私が何とも言わずにぽかんとしていたからか、瞬兄は事態を悪い方向に取って身形を整えようとし始めた。
帰る気だ!
「瞬兄言って」
慌てて、その腕を掴む。
流されてる? そうかもしれない。
チョロイ? 今の今まで恋愛感情のなかった相手だ。そうかもしれない。
そうかも、しれないけど。
「私のこと、好きって言って」
恥ずかしいセリフだと思った。でも、言ってほしかった。
瞬兄は目を丸くして、私をまじまじと見つめて、それから“紗名ちゃん”と優しく呼びかけて。
「――――好きだ」
そう、言ってくれた。
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