たった一人のためだけの筋肉 3

1/1
前へ
/24ページ
次へ

たった一人のためだけの筋肉 3

 瞬兄の返答は予想外のものだった。  自分を肉体改造をするくらには。  筋肉の付いた引き締まった身体。それは、つまり。 「私の、ためだったの……?」  何でそんなに変わっちゃったの、何があったのって思ってたのに。まさかの私のためとは。 「昔から、ずっとそうだっただろ。テレビアニメを見ていても、少女漫画読んでても、紗名がうっとりするのは王子みたいな完璧なイケメンじゃなくって、がっしりした迫力あるタイプの男ばっかりで」  確かに、その通りだ。  私の筋肉好きは女児向けアニメを見ていた幼い頃の時点で片鱗を見せていた。周りの女の子がキャーキャー言う王子様キャラより男くさい感じのキャラが好きだった。  お付き合いしている彼女さんがいてその人の好みかもとか、どっちかと言うと合わせられるところは人に合わせてくれちゃうタイプだとか、瞬兄の変化をそういう風に考えていたちょっと前の私の予想は、ある意味当たっていたらしい。  そりゃもちろん、瞬兄の今の身体、とってもタイプです。  いや、身体目当てでこんなことになってるのではないけどね?  中身に搭載されている瞬兄の人格込み込みですけどね? 「そのうちに、ラグビーとか熱心に観て感動してて、あぁ、これは本当に好きなんだな。こういう見目の男が好みなんだなって」  うぅ、そう言えば一緒に夕飯食べてる時も海外の試合を点けてたり、雑誌の特集について一人熱く語ってたりしてた。鍛えられた肉体であれだけ激しい試合をこなすの、本当にすごいなって。  優しい瞬兄はどんな気持ちでそれを聞いてくれてたんだろ。 「近所の優しいお兄さんじゃ、一生選択肢に入れてもらえない」  そうだ。瞬兄のことは大好きだったけど、それは無邪気に懐くタイプのものだった。妹としての感覚だった。  今なら気にならないけど、子どもの頃の五歳差って結構大きくて、瞬兄はそもそも私にとって恋をする対象じゃなかった。とう言うか、むしろ向こうにとってこっちがそういう対象にはなり得ないはずだったんじゃ。 「なんで、そこまで」  うん? 一体瞬兄はいつから私のことを好きだったんだ? と疑問がむくむく湧き上がってきたけど、それよりも自分をガラリと変えてしまうほどの情熱が不思議だった。  だって、ここまで仕上がった身体を作ろうと思ったらかなりの努力が必要だ。生活を根本から見直して、変えていかなきゃいけなかったはず。  元々筋トレが好きだったとか、そいう訳でもなかっただろうに。 「どうしてだろうな」  瞬兄は曖昧に微笑んだ。それは優しくて優しくて(とろ)けるような笑みだった。 「でも、どうしたって、紗名が良かったんだ」
/24ページ

最初のコメントを投稿しよう!

188人が本棚に入れています
本棚に追加