見知らぬ筋肉もとい男性 4

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見知らぬ筋肉もとい男性 4

「違うの! 今ちょっと色々、見直してて、それで……!」  いつもはこんなんじゃないんです!  クローゼットから引っ張り出された透明ボックス、広げられた衣服、詰まれた本、さっき落としてひっくり返ってる段ボール等々。お世辞にも綺麗だとは言えない惨状。  人様に公開できる状態でないのは確かだ。あんまりひどい。  居た堪れなさにちょっとでも誤魔化そうと、衣服の山に手を伸ばしたその瞬間。 「いたっ!」  ぐっと力の入った右足首に痛みが走る。 「え、大丈夫? ってかさっきのすごい音、結局何の音だった?」 「さっき、その棚の上にあった箱取ろうとして、バランス崩して落ちて。足首ちょっと痛いかも……」 「それは大変だ!」 「いや、そんな大事じゃ、ちょっとぐねっただけひゃっ!」  微かな浮力と共に、ぐわっと身体が持ち上げられる。 「えぇ!?」  膝裏と背中に感じる逞しい筋肉。これは。  お姫様抱っこをされてしまっている……!  瞬兄は呆気に取られている私を気にも留めず、すごい勢いで部屋を出て階段を駆け下りた。結構なスピードが出てたけど、鍛え上げられた身体はビクともしないから私も怖いとは思わない。  人生初のお姫様抱っこはとても快適だ。そして慣れない扱いにドキドキを隠せない。  瞬兄はリビングに入り、抱き上げた時の勢いとは対照的にそっと私の身体をソファに降ろすと、 「薬箱薬箱、どこだ。確かリビングにあったよな」  とキョロキョロし始めた。 「あ、そっちの棚の開きの中に」 「これか」  藤製のカゴを取り出して、中身を確認する。もしかしなくても手当てしくれる気らしい。 「うーん……湿布はないみたいだな。紗名ちゃん、医療品ってここだけ?」 「だと思うなぁ。湿布が必要なこと、ウチではあんまりないから買い置きないかも」 「そうか」  両親共に捻挫もあまりしないし、腰も今のところ丈夫なのだ。  と、瞬兄はおもむろに財布財布とポケットを確認し出した。 「え?」 「ドラッグストアに買いに行って来る。多分ウチにも買い置きないだろうし」 「え、いいよ!」 「近くだし、気にするな」 「いやいや、これ、放っておいても大丈夫だと思うよ。今だけだよ、痛いの」 「そういう慢心があとで響いて来るんだぞ」 「でも――――ってっくしゅん!」  変なタイミングでくしゃみが出た。そう言えばなんか寒い。冷たい風がすーすー入って来る。 「しまった、開けたままだった」  見ると、リビングの大きな窓が開け放されていた。  瞬兄が閉めに行こうとしてくれて、でも途中でくるりとこちらを振り返った。ちょっと怖い顔をしてる。 「紗名ちゃん」 「は、はい」  何だろ、私、何かやらかしましたか。 「窓、開けっ放しだったぞ」 「あ」  そうか、瞬兄、物音を聞きつけてここから入って来たんだ。玄関の鍵はかかっていたはずなのにって不思議に思ってたけど。 「空気の入れ替えしたいなって思って、開けて、ました……」 「不用心じゃないか。夜に一人で家にいる時に窓を開けたまま、しかも放っておくなんて。それがたまたま功を奏して駆け付けられた訳だけど……紗名ちゃん、犯罪は時も人も場合も選ばないんだぞ。しかも自分が若い女性だって自覚はあるのか?」 「う、ごめんなさい……」  何もかも仰る通りなので、反論の余地はない。  確かに不用心だった。うっかりで済めば良いけど、時に取り返しのつかないことだって起こり得る。  瞬兄は手早く窓と鍵を閉めると、わざわざ私のところまで戻って来てぽんと頭を優しく撫でた。 「まぁ今後気を付けてくれれば良い。とにかく、湿布買いに行って来るよ」
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