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迂闊な合法おさわり 4
いや、過度な願望が幻聴まで、と思ったけど、今もしかして、ご本人からタッチの許可が?
「なな、なんで」
「いや、紗名ちゃん、すごいガン見するから。筋肉、好きなんだろ」
え、私、瞬兄に筋肉フェチなことカミングアウトしてたっけ? そうだっけ?
無意識に、生唾を飲み込んでいた。
私は筋肉フェチだけど、ほとんどはテレビやら雑誌やらで眺めるだけで、生の筋肉にタッチする機会などそうない。
幼馴染のお兄さんの上半身を撫で回すなんてあんまり変態チックじゃないかしら、と思いつつも、これは貴重な機会なのではとも思ってしまう。
「…………あのう」
「くっ、遠慮しないで良いよ」
ご本人が良いと仰っている。しかも私の傍でしゃがんでまでくださっている。じゃあもう躊躇う必要はないのでは。
「では、その、失礼して」
理性さえきちんと保っていればこれは合法おさわりなのだ。そうだ。
無防備に晒された上半身にふらりと手を伸ばす。
そして。
「ふぁ……」
吸い寄せられるように手が伸びて、厚い胸板に触れる。それはまぁすんごい立派な大胸筋だった。
「ふぉお……!」
魅惑の、そして不思議な障り心地だった。弾力はある。厚みを感じる。力を入れればとても固く、でも抜かれるとふわっとした感じも覚える。すごい質量。
なんだこれ、なんだこの雄っぱいは!
「すごい、これ、私のよりあるんじゃ」
思わずそんな感想が漏れる。
「それはないだろ」
いや、ある気がする。瞬兄からは即座に否定が返ってきたけれど、そう思わずにはいられない立派な大胸筋だ。
「ま、負けた……」
悔しくはないけど。
立派な雄っぱいは至宝だから、私ごときの胸部の脂肪と比べること自体おこがましいと言いますか。勝負にならない。
「いやいや、勝った負けた以前にそもそも種類が違うから」
「種類」
そうですね、確かに違いますね。これは筋肉。私に多少あるのは脂肪ですので。
「それにしても本当にこれは立派な……」
瞬兄が拒絶の気配を見せないものだから、調子に乗って腕やら背中やらにまで手を伸ばしてみる。どこに触れても感動する。バランスよく鍛えられた身体だ。
「すごいなぁ」
しみじみと呟いてパッと顔を上げたら、瞬兄と目が合った。
え、もしかして筋肉をまじまじと眺めてた私を瞬兄はまじまじと見てた?
急に恥ずかしくなって、顔にカッと熱が集まる。
瞬兄はそんな私を見て“紗名ちゃんは相変わらずだなぁ”といった顔で苦笑――――したりはしなかった。
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