迂闊な合法おさわり 5

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迂闊な合法おさわり 5

「え」  かっちり合った瞳は真剣で、でもどこか熱が灯っていて。  待って、これ、どういう雰囲気?  急にどくりと心臓が脈打つ。これはまさか、何だかそういう雰囲気ではないか。色っぽい雰囲気ではないか。  そんなまさか、とすぐに否定が飛び交う。  そんなまさか、瞬兄が私になんて。  だって私は妹みたいな存在だし。今までそういう雰囲気になったこと一度たりとてなかったし。それに五つも年が離れてたし。  そこまで考えて気付く。  小中高生の頃の五つ差はとても大きかった。もう完全に相手は別の世界の人で、自分より確実に大人で、恋愛なんてカテゴライズできる雰囲気ではなかった。でも、二十歳を超えた男女の五歳差って、あの頃の隔絶は何だったんだって思うくらいにハードルが低い。  つまり、どうこうなってもおかしくない年齢差ではある。 「瞬、兄……?」  完全に空気に呑まれている。  目の前には上半身裸のイケメン。二人以外、他には誰もいない家。不用意なボディタッチ。近付き過ぎている距離。 「紗名ちゃん」  大きな手がこちらに伸ばされた。避ける暇はなかった。避ける気はなかったの間違いだったかもしれない。  頬を包まれる。あったかい手だった。緊張と安堵が混ざり合った変な心地がする。  親指が頬を滑る。優しく優しく何度も撫でられる。  どうしよう。心臓がヤバい。ものすごくどくどく言っている。  どうしたらいいのだろう。どうしたいのだろう。全然分かんない。  大きな手は今度は耳をすりすりしてくる。まるで犬猫を撫でるみたいだとも思ったけど、やっぱり嫌ではなかった。  くすぐったくて、気持ち良い。そわり、と背中にむず痒い感覚が走る。 「紗名ちゃん」  名前を呼ばれる。  瞬兄はこんなに甘く私の名前を呼んだっけ?  優しく呼ばれることは沢山あった。瞬兄はいつでも私に甘かった。でも、そういうのとこれは全く違う。  甘い果実酒に何年も何年も漬けられていたみたいに、どうしようもない糖度を含んでいる。 「嫌だったら、そう言ってくれ」  唇をぷにぷにされる。 「嫌だと言われたら、絶対にこれ以上はしない」  これ以上ってなんだろう。キス? ハグ? もっとそれ以上? 「っ…………」  否定の言葉は出て来ず、零した熱を孕んだ吐息が瞬兄の指を湿らせただけだった。 「あ……」  顔が近付いて来る。どうしよう、近付いて来ちゃう。  あわあわしている内に、唇が重なった。
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