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見知らぬ筋肉もとい男性 1
“触ってみる?”
鍛え上げられた身体を惜しげなく晒されて、そんなことを言われてしまったら。
言われてしまったら、もう我慢なんてできるはず――――
ピーンポーン!
階下から響いたインターホンの音に、思い切り伸ばしていた手を止める。
宅配便かなと思って、それからそうだ、今日は瞬兄が来るんだって思い出す。夜勤に出る前に母が、“高遠さんとこの瞬君、今帰って来てるんだって。あとでお土産持って来るって言ってたからよろしくね”って言っていた。そうだ、言ってた。
「ヤバいヤバい、待って待って」
ちゃんと出なきゃとは思うけど、ちょっと今体勢が宜しくない。
本棚の上に詰んでいた箱を降ろそうと、座椅子を足場に奮闘していた。その座椅子っていうのがあれだ、高さ二十センチちょっとの円筒形で、座面が蓋になっていて、開ければ中にちょっと物がつめれますっていうよくある簡易的なやつ。つまり、それほど安定したものではない。
「ひえっ」
焦りは禁物だと言うのに、インターホンの音に気が急いて力んでしまった。指が引っかかっていた箱が、掴み切る前にずり落ちて来る。受け止めようと前のめりになれば、今度は足元があっけなく傾いた。
「待っ、ひゃあ――――~っ!」
だだんっ! と箱と身体がそれぞれ床に打ち付けられる音。
「っう…………!」
痛みに息が詰まる。インターホンがもう一度鳴る気配がしたけど、残念ながら立ち上がるどころか身動ぎ一つできない状態だった。
待って、待ってって、今この衝撃をやり過ごすから。そうしたら、ちゃんと対応するから。
腕と足首が痛い。お尻も打った。でも、そんな大事じゃない。大丈夫。折れてるとかじゃない。だから大丈夫。
「う」
言い聞かせながら、上半身を起こし始めたその時だった。
「――――え?」
ずんずん力強い足音が階段の方から聞こえて来る。
「な、なんで」
家の中には誰もいないはずなのに。玄関の鍵だって、当然閉まっていたはずなのに。なのに確実に誰かがいる。近付いて来ている。
「ふ、不法侵入……!」
さっきのはお隣の瞬兄だと思ってた。でも、もしかしたら違うのかも。泥棒だったのかもしれない。
いや、でも今大きな物音は聞こえていたはずだ。なのに入って来るってことは、もっとヤバい案件かもしれない。
「どうしよ……!」
足音はどんどん大きくなる。私の部屋は二階の突き当たりなのだけど、何故か止まる気配はなく迷わず真っ直ぐ目指されている気配。
勘弁して!
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