あくい、あくい。

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 ***  私は学校用の筆箱を、いつも机の上に置いたままにしている。特に盗まれて困るようなものも入っていないし、お道具箱がいっぱいになりすぎて筆箱が入らなくなってしまったというのが大きい。  ゆえに、私が筆箱で隠した下の落書きを思い出したのは――それこそ、その日家に帰った後のことであったのである。 ――どどどどうしよう!やらかした!いくらなんでもあんな恥ずかしい絵……誰かに見られたらヤバイ!ていうか、既に誰かに見られてそう!  男子にもからかわれそうだが、アキト君が好きな女子に見られるのが一番まずい。それこそ、どれほど冷たい視線を向けられることになるやら。私は真っ青になって、翌日はいつもよりずっと早く学校に来たのである。せめて朝一で、あのしょうもない落書きを消すために。  ところが。 「!?」  筆箱をどけた私は、絶句した。落書きが、綺麗に消されているのである。それだけならば、先生が掃除の時にでも見つけて消してくれたのかな、なんて思うところだが。問題は、消えた落書きのあったあたりに、文字が書かれていることだ。 『こんにちは。みかのちゃんは、アキト君のことが好きなんだね。  アキト君のどのあたりが好きなの?  みかのちゃんと、お話がしたいです。  おへんじまってます。』  まさかの、誰かからのメッセージ。しかも、ばっちりと落書きを見られた上で、の。  私は青ざめて――しかし次の瞬間に思い出した。文面と文字からして、書いたのは明らかに先生ではない。クラスの誰か、それも私=みかのに特に悪意を持っていない人間である。  お返事を待っていますということは、ここに返事を書けば伝わるということだろうか。私は意を決して、そこに返事を書き込んだ。どこの誰がいつ、それを見るかもわからないというのに。 『あなたはだれ?  どうしてらくがきを消したの?』  それが、顔も見えない謎のクラスメート(?)との、秘密の交流の始まりだったのだ。
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