サント・マルスと大陸の覇王 巻の8

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その77.海の神  「それともう一つ。」 クリフ氏は疑問を投げ掛けてきた。 「ソルレイズは水の女神アクアオリエスの国。水雫星とは違う名と 言うのは・・・。」 「かつてイズラマ海にあった小さな島国メルクーアがその名の由来だ そうなのです。しかし大地震で島の半分が溶岩に流され殆ど人が住めない島になったと言われています。私が調べたところでは・・・。」 「いいえ、そうではありません。」 アクアオリエスが現れた。 「何か知っているのか?。」 「ええ。ソルレイズへやってくる旅人同士の噂から聞いた話ですが。」 アクアオリエスは静かに話し始めた。  ソルレイズの一部がかつてレイズ王国という小国だった頃、クレア島の近くに存在した地図にも載らない島の名がメルクーアと呼ばれていた 島だった。その島の住民は、ユーラント人ともエイジャン人や、また ゴンドワシア人とも違う人種といわれていて、宇宙人ではないかという 説もある民族といわれていた。当時の天文学者がその名を気に入って 太陽の一番近くを公転するこの星に水雫星(メルクーア)と名付けたと いう。温暖な気候と、周囲を海に囲まれたているという好条件から食糧 事情には事欠く事もなく、誰もが平和に暮らしていたという。しかし、 大陸間戦争末期当時王子だったリポリ王国のカルヴァンテはこの島を 占領し、自国の食料基地にしてしまったという。  それだけではない。この島に存在する海の女神メルクーアの美しさに 惹かれ、女神毎島を占領下においてしまったのだという。  カルヴァンテの独裁に脅威を感じた島の住民達は自分達の一筋の希望を願って女神メルクーアを封印したという。それを知ったカルヴァンテは 怒り、島の住民を一人残らず虐殺したという。その後、火山の噴火に よって島は溶岩で半分以上埋もれ、人が住めない無人島と化して しまった。ちなみにリポリ王国はソルレイズを統一したニコリス・ ソルレイ、アルトゥーロ・チェーザレ母子によって滅亡した。 その為、メルクーア島については誰も詳しいことを知る者はいなく なってしまったのだという。 「小さな島の伝説、ではあるが・・・。」 「けれど、私が知っている海の神の伝説についてはそれ位しか解からないのです。」 「そうか・・・。」 そう言いながら、私はメルクーアの伝説について調べ始めた。過去に 書いた著作に使用する為に少し調べた事はあるが、位置とか気候、面積 等そんなものだったが、今回はもっと掘り下げて探そうと考えていた。が、しかし、やはりそれを記した物が見つからない。 「行くしかないか・・・。」 「けど、今は火山による溶岩で人が立ち入る事など・・・。」 クリフ氏は躊躇う。けど私は余裕の表情で答えた。 「サント・マルスがいる。火山のエネルギーは、サント・マルスの エネルギー源でもあるんですよ。」 クリフ氏は成る程・・。という顔をした。  それからすぐにクレア島への上陸許可を得た。クレア島からメルクーア島までは然程距離はないのでアクアオリエスが道を作ってくれるという。 クレア島でもメルクーア島に一番近い岬の突端からアクアオリエスは 海面に祈りを捧げた。するとなんと海が割れ道が出来ている。そこを 渡ってメルクーア島への上陸に成功した。  島は見渡す限り生き物の気配はない。僅かに苔やシダ類などの原始 植物が冷えた溶岩を覆っている。 「女神メルクーア、滅んでいなければいいが。」 私、サント・マルス、アクアオリエスは島を探索した。「王!!。」 「何だ?。」 「何か見つけたようですね。」 一見何もない、溶岩が流れた跡が残る岩を凝視する。 「ここに、神の気配がある。」 サント・マルスはその場所に手を翳した。岩は融け、ぽっかりと空洞が 見えた。 「この中か?。」 サント・マルスは中に入ろうとしてやめた。 「アクアオリエスよ、相手は海の女神。私が手を差し伸べる事は 出来ない。宜しく頼む。」 「お任せ下さい。」 アクアオリエスの後を追って私も穴の中に入った。  穴の中は思ったより広くはなかった。奥のほうが外と繋がっている ようで一筋の光が差し込んでくる。天井から水が滴り落ちて背中に 当たる。サント・マルスではないが、何か神々しい気配がする。それが ただの人間では感じ取れない力のような気がしてならなかった。 「・・・そこにいるのは・・・もしかしたら大陸神ユーラントでは ありませんか?。」 いきなり尋ねられ、私は戸惑った。 「いえ、そうではなく、そうでもあるし・・・。」 周囲の海水の粒が一瞬にして凝縮し、まるで人の姿のようになった。 「海の女神メルクーア・・・そうですね。」 アクアオリエスは尋ねた。 「私の姿を知っている、そなた達は何者?。人ではないようですが。」 メルクーアは半透明の身体をくねらせ、近づいてきた。 「・・・驚きました。大陸神ユーラントとばかり思ったのですが、その 記憶を持った人間とは・・・。そして北の港町を守護する女神 アクアオリエス。何故私の封印を・・・?。」 私は一呼吸し、説明した。 「この惑星エーアデに巨大惑星が接近衝突すると言われています。 そうなればこの惑星は消滅し、全ての生命の生きる希望が失われて しまう。その事は御存知かと思いますが、それを回避する手立てと して女神メルクーアを復活させたいと。」 「あの・・・もう一度仰って下さい。惑星が・・・なんでしょうか?。」 私とアクアオリエスは顔を見合わせた。 「もしかして・・・御存じないのか。」 私は改めてメルクーアを見つめた。全てを話そうと思ったが、ある事に 気が付き、 「その掌をお借りできますか?。」 そう言うと、メルクーアは私の頭上に手を翳した。 「・・・何という事!!。」 メルクーアは驚いて手を引き込めた。そして少し考えた。 「私が全てを閉ざしていた間にそんな事が・・・。」 「ええ、私達に協力して頂きたくこの地にやってきました。お願いです、あなたの力を貸して下さい。」 メルクーアは少し考え、「判りました。」 そう言うと、天に祈りを捧げた。 「この地が示すもの。海底に埋もれた過去の遺産に近づける力を与えましょう。さあ、女神アクアオリエスよ。その掌を私に預けて下さい。」 アクアオリエスは言われるがままに手を差し出した。すると アクアオリエスの身体は眩しいほどの碧い輝きを放った。  私とアクアオリエス、そしてメルクーアは地上に出た。 「サント・マルス・・・何処へいった?。」 姿が見えない。嫌な胸騒ぎがする。私は島の高い場所目指して走った。 「サント・マルス!!。」 私は叫んだ。不意に雄叫びが上がり、そちらを見た。すると完全体の サント・マルスがエイジャン大陸のある東側から飛んできた。 「・・・どうしたんだ一体?。」 サント・マルスは旋回し、私のすぐ側で人型になった。 「すまぬ、心配をかけた。・・・実はあの時・・・。」「あの時?。」  サント・マルスが話した内容は驚くべきものだった。守護神という ものは多少の例外を除き生まれた大陸の中だけでしか神通力を発揮 できないのだが、地上にある火山の地脈を読み取り、それに沿って大陸の外へ出ることが可能になったという。 「大陸神ティマイオスが私に力を与えたような気がしていたが、何の 力だったのかずっと疑問に思っていた。だが先程この火山の大地に 立った時、そんな気がして思い切って大陸の外へ出てみた。」 「ティマイオスが与えた力か・・・。」 「ただ、地脈も海が深ければ読み取ることはできない。」 「そうか、やはりティマイオスもこの惑星の滅亡を阻止しようとして くれてるのか。」  「ああ。ところで、女神メルクーアはどうなった?。協力して くれるのか?。」 自分が呼ばれたと思ったのか、メルクーアは振り向き、こちらに 近づいた。 「私の封印をといたのは、あなたなのですね。」 「そうだ、だが、封印が随分と簡単に解けるものだな。」 「ええ、この島の火山エネルギーを使い、自らを封印しました。あの リポリ王国カルヴァンテから人々を救う為に。私が居なくなれば カルヴァンテは諦めると思ったのですが、まさかあんな惨い事を するとは思ってもみなかった。気付いた時には内側から封印を解く ことは出来なかった。」 「という事は・・・火山を爆発させたのはあなたの力なのですか?。」 私はメルクーアに尋ねた。 「ええ、けれど私は海の神。火山エネルギーと言ってもほんの僅かな もの。そちらにいる火焔の神ほどの力はありません。」
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