何かが足りない

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 そうまでして俺と別れようとしない、そして俺も別れようとしない最大の理由は何を隠そうお互いに体臭フェチだからだ。つまり妻は俺のイカを醤油焼きにしたような、俺は妻の牛乳を腐らせたような体臭をこの上なく愛しているのだ。で、お互い5分以上、相手の体臭を嗅げなくなると、禁断症状を起こして不快感不安感を抱き、情緒不安定になるのだ。だからお互い独りで外出する時はバックの中に相手が丸一日身に着けた下着を忍ばせ、5分に一回はそれを取り出して匂いを嗅ぐのだ。まるで薬物依存症者のように将又、変質者のように・・・パートナーの臭いがする下着がお互いにとっては虎の子グッズになる訳だ。  しかし、俺はその所為で時には本当に変質者に思われることがある。こないだ妻のブラの匂いを嗅いでいるところを女子高生二人組に見られてしまい、キャー!変態だ!変なおじさんだ!下着泥棒だ!なぞと叫ばれて面子が丸潰れになってしまったのだ。誰にも見られていなくても妻のパンティの匂いを嗅いでいる時なんかは後ろ指をさされている気がしてとてもじゃないが、落ち着かない。  反面、良い事もあって二人で出かけると、お互い匂いを嗅ごうとピッタリ寄り添うから世間からおしどり夫婦のように思われる。時にはお互いクンクン匂いを嗅ぐから犬みたいと言われることもあるが、コロナ禍になってからソーシャルディスタンスを守れという世間の目を気にするようになったから或る程度、離れなければならない必要に迫られる。でも大丈夫。何が大丈夫ってお互い相手が丸一日使ったマスクをするから匂いを嗅ぐのに事欠かないのだ。洗わないと意味ないだろ!口臭でも良いのかよって突っ込まれそうだが、そうなのだ。それに俺はテレワークになったから妻にあと5分匂いを嗅がせてと言われ、それに従って会社に遅刻することがなくなったし、妻の体臭のお陰で何だか快適に仕事が出来て捗る。但、相変わらず妻は言う。 「何かが足りない」
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