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「何かが足りない」
何かにつけて妻は言う。妻は多くの女がそうであるように金が有れば有る程、自分を飾り立てようとするに違いないが、無理にはそうしない。身分相応にすることを心得ているのだ。しかし、俺の経済力に不満を持っていることは確かで「何かが足りない」と殊更に言うのもその為だろう。それは露骨じゃないようで露骨な響きを持った剣のある表現だ。現に俺はそれを聞く度に身を切るような心の痛みを感じる。頭が足りないと言われないだけましかと思ったりもするが、妻は性生活に於いて遂に欲求不満を刺々しく吐露した。
「あと5分持ち堪えろとは言わないわよ。あと5万昇給しろと要求するのと同じくらい無理なことなんだから!でも、せめてあと一分持ち堪えなきゃ駄目よ!私に何かが足りないって少しでも言わせない為にね!」
持久力それもあったか。いかに早漏と雖も俺に経済力があれば、こんな文句は言わないだろう。そんな訳で妻は俺に不満たらたらになることがあっても満足することは決してないが、俺と別れようとはしない。自身、玉の輿に乗れるだけの器量がないことを心得ている、それもあるが、妥協、我慢、忍耐、諦観するしかない。そうも心得ているのだ。
そうする所為で生じるストレスを「何かが足りない」と当てつけがましく言うことによって発散し、またフラストレーションを解消し、足りないものを補おうとユーチューブやDVDでキムタクを見まくって、その際、秘かにキムタクをおかずにして自慰をしているようだ。
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