未来への5分

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「あと5分なんだって」  声が聞こえた、というより、まどろんでいた意識に言葉が浮上して、俺は目を覚ました。  変わりなく、帰省途中の電車の中だ。ボックス席にいる。  向かいに、いつの間にか見知らぬ男児が座っていた。五、六才ぐらいか。  どこかで見たことある気がする子供だが、思い出せない。 「あと5分」  男児が窓を見て呟く。  車内を見回したが、俺たち以外に誰もいない。 「あと5分なんだ」  他の車両から来た子供なのだろうか。俺は男児の独り言を、聞かされ続ける難儀を思って困った。 「なにが5分なんだい?」  思わず尋ねてしまう。都会からひとり出発して、数時間電車に揺られている。黙っていることに飽きていたのかもしれない。 「ぼくが帰るまでだよ」  終点まで確かに、あとそれぐらいだ。 「お兄ちゃんはおぼんがえり?」 「まあな」  確かに世間一般的には、この時期の帰省はお盆帰りだろう。ただ俺の事情は少し異なった。それもお騒がせな両親のおかげだ。 「ぼく、帰るのがこわい」  突然、男児はしゅんとうつむく。 「帰りたくない」 「どういうことだい?」 「また色々と、失敗するんじゃないかって」
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