友人から恋人へ

9/17
1693人が本棚に入れています
本棚に追加
/214ページ
ただ戸惑うしかない私を見て棚橋さんは苦笑する 「言えなかったって。  仁科さんはいつも違う男性を見ていて  自分の入り込む余地がなかったと言っていたよ  でも、大学で再会して飲み友達になって  あわよくば恋人になれればって思ったらしいけど  君が全くその気がなくて今日まで来てしまったらしい  どうだろう、改めて高野君のことを真剣に考えてあげて貰えないだろうか?  彼は良い男だよ」 棚橋さんは余程 聡のことを買っているのだろう こんなに自分の部下の恋愛を成就させようと 熱心になる人はなかなか居ない気がする 私はさっきからその熱意に押されっぱなしだった でもそれで私の気持ちが変わるかと言えば そうはいかないのが恋愛感情の難しいところで そもそも私は聡本人から告白されたわけでもないし そんな素振りも感じたことも無い 一つだけ思い当たることと言えば、私の恋が終わる度 「ま、30過ぎても一人だったら俺が貰ってやるよ」 の言葉で慰めることくらいだろうか この言葉って男女の友人関係ではよくあるセリフだと思う 私の友人のTは同僚の飲み友達からその言葉を言われたけれど 相手の同僚はその翌年、 さっさと高校の後輩と結婚したっていうし そういう話は今までに何度も聞いた気がする いわゆる、お互い最後の選択肢として 有っても良いかなくらいの気持ちで使っているものだと私は思っていた 自分の言葉に今一つ反応の悪い私を見て 棚橋さんは私に体を傾けると声を潜めた 「本当はこれを言って良いのかわからないが  高野君は1年前からずっとあるものを君に渡せないでいる  彼の部屋にあるベッドサイドの引き出しに  それがあるから見てごらん  彼の本当の気持ちがわかるよ」 棚橋さんはそう言うとレストルームの方向を見ながら立ち上がった 「それにしても高野君は遅すぎるな、ちょっと見て来るよ」 5分ほどして棚橋さんが戻ってきた でも聡が居ない
/214ページ

最初のコメントを投稿しよう!