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うちのクラスには変わった子がいる。見た目は普通の女子だ。
俺が見る限り怒ったり笑ったりしないし、あまりみんなのそばに寄らないし、特に仲の良いやつもいない様子。
身体を動かすことを避けているらしく、体育は出ているのを見たことがない。
病気がちなのかと思ったがそうじゃないらしい。
そんなに具合が悪そうでもないし、いつも帰りはたった一人、早足でさっさと帰る。
他も普通だ。
無口な方だけどしっかり言い返すから、もしかしたら他人があまり好きではないのかもしれない。
おまけに火には近づかない。
調理実習のときのことだ。
「煌野(こうの)、お前手伝えよ」
「…嫌」
いきなりクラスの他の男子に話しかけられて戸惑ったようだが煌野はきっぱりと断り、やっぱり鍋のそばから離れたまま。
どんなに周りが言おうとからかおうと、みんなと一緒にはやらなかった。
放課後すぐ、俺はずっと今まで気になってたのに話しかけられなかったのもあり、煌野が一人になったのを見計らいこっそり声をかけた。
他のやつにバレるとうるさくて、煌野に迷惑がかかると思ったからだ。
「煌野…あのさ、今日は急いで帰る用事あるのか?」
「…なんで…?」
無表情で静かな声。
こうして聞いてみるとなかなかキレイな声だ。
俺は入学して以来、煌野の声をこうして間近でしっかり聞いたことはなかった。
「あ、あのさ、どこでもいいんだけどさ、その、どっかでなんかしゃべんない?」
「…?」
煌野は無表情のまま、ほんの少し首を傾げる。
「あ、その、煌野と何か話がしたいんだよ。ダメ…?」
「…私と…」
煌野はつぶやき下を向いた。
「…やめておいたら?布施くん、私と話すとからかわれるよ…」
「俺はいいんだよ、したいんだからさ。煌野は嫌かな、って…」
下を向いたままの煌野に対して、俺はしっかり煌野を見て言った。
きっと真剣さが伝われば煌野は話を聞いてくれると思ったから。
「…私は…嫌じゃないよ…」
煌野はチラッとだけ俺を見た。
「…布施くん…私をからかったりしないから…」
「そっか。でもよかった、煌野が嫌じゃなくてさ!どこで話す?人、あまりいないほうがいいだろ?」
煌野は小さく頷いた。
そして、
「…布施くん、優しいから…」
聞き逃しそうなほど小さな声。
「なんか言った?」
俺が聞き返すと、煌野はまた何も言わずほんの少し首を傾げた。
「あ、じゃあさ…」
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