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「ばぁばだよ、ばぁ。」
それを最後にお婆ちゃんの口から直接聞いたのは、私が社会人三年目に突入する頃だった。
仕事も任される事が増え、一番大変な時期だった。
忙しい日々に追われ、疲れ果てた真夜中、ふと安らぎを求めてお婆ちゃんの顔を見に行くと、暗い部屋で一人、静かに眠っていた。
「お婆ちゃん。」私はそう呟くと、優しいお婆ちゃんの寝顔をそっと覗き込んだ。すると……。
「ばぁばだよ?ばぁぁ」
お婆ちゃんは大きく目を見開くと、満面の笑みを浮かべた。
突然の事に驚いた私は、思わず尻餅をついた。血の気が引いていくのがわかった。
するとお婆ちゃんは、私の怯える表情を見て、ベッドの上から何度も笑顔で言ってきた。
「ばぁばだよ、ばぁ。」
「ばぁばだよ、ばぁ。」
「ばぁばだよ、ばぁ。」
私は最初こそ驚いていたものの、それが私を安心させる為の行為だと気が付いた。
「ばぁばだよ、ばぁ。」
「もういいよ、ありがとう。」
そう言って、私がお婆ちゃんの頭をそっと撫でると、お婆ちゃんは再び静かに寝息を立てて眠り始めた。
その翌日、お婆ちゃんは息を引き取った。
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