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その日の夜、私はまだ元気だった頃のお婆ちゃんの夢を見た。私は子供で、私のすぐ目の前の距離に、お婆ちゃんの顔がある。
「ばぁばだよ、ばぁ」
お婆ちゃんの笑顔に、当時はケラケラと笑っていた私だが、夢の中にいる私は笑わない。
もう、何年も見て来た光景だ。笑おうにも、顔が引きつってしまう。
「ばぁばだよ、ばぁばだよ。ばぁぁあ」
お婆ちゃんは必死に笑わそうとするも、私は一向に笑わない。
すると、優しいお婆ちゃんの笑顔は、徐々に真顔になっていき、最後には見た事のないくらい、冷たい表情になった。
じーっと、私の顔を見ている。その顔は、さらに私に近くなっていく。
鼻と鼻が触れる。額と額が触れる。まつ毛とまつ毛が触れる。
私はそれが、あまりに冷たい顔で声が出せなかった。体中が硬直して、身動きが取れない。
瞬きをする度に、目がチカチカする。そのまま、私とお婆ちゃんは見つめ合っていた。どれくらいかは、わからない。それはとても長い時間の様に感じた。
「ゴンッ!」
突如鈍い音がすると、お婆ちゃんの目は真っ白になった。口から溢れる白い泡が私の口元に触れて来る。
力を失ったお婆ちゃんの、顔面の全ての重みが私の顔に乗りかかる。
「チッ。ばばぁが、邪魔しやがって。」
それは、冷たい声だった。すると、急にお婆ちゃんの体はグイッと持ち上げられた。
お婆ちゃんの体で見えなかったが、その後ろには誰かいた。よく見ようとするも、お婆ちゃんの唾液が垂れて来て視界を遮った。
薄らと見える視界の向こう側、何者かがニヤリと笑うのを最後に、私は夢から醒めた。
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