君との5分間。

1/1
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
あと5分。 いつからか同じ電車になるようになった君と共有できる時間。 毎朝同じ時間の電車で同じ駅になると乗ってくる。 それは今日も変わらなくてまた降りるまでの5分間、君と時間を共有する。 私の目前に立つ君。 私の耳にはイヤホン。 君の手には何やら小難しそうな本。 ふいに顔を上げると君は本なんか読んでないように私と視線が交じり合った。 反射的に目を逸らしたのは私のほう。 なんだか落ち着かなかったから。 君と私は同学年。 クラスや名前は知っている。 それから君がよく一緒にいる友達の名前も。 決してストーカーなんかじゃない。 噂になりがちな君の情報は知りたくなくても勝手に耳に入ってくるんだから。 二度目に君のほうへ視線を向けるとやっぱりパチリと目が合った。 今度はほんの少しだけ君の目を見つめてみた。 それでもやっぱり逸らしてしまうのは私のほう。 車内のアナウンスが次の駅を教えてくれる。 そろそろ今日もタイムリミットだ。 5分間なんてあっという間。 私の耳にはまだ君が入ってきた時と同じ曲が流れている。 停車して降りるとき君とまた目が合った。 今日もそれだけ。 いや違う。 君の口元が動いた。 口パクではあるけれど確かに私の名前を紡いだのだ。 しかし残念なことに驚いた私の頭は真っ白で返事はできなかった。 いつか。 いつか君と言葉を交わせる日が来るのかな。 いつか私も君の名前を呼びたいな。 そんなことを考えていると私を車内に残したままドアは閉まってしまった。 ああ今日は遅刻決定だ。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!