4#あの夏に戻りたい

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 「戻りたいよ・・・戻りたいよ・・・」  カモメのトフミの目から、涙がポロポロとこぼれ落ちてきた。  「戻りたいよ・・・あの去年の様な人間達がワイワイと自由に楽しんでるあのあの夏に戻りたいよ・・・  あれが『夏』だよ・・・あれが俺の『夏』なのに・・・」  「おいらも気持ちは同じだよ・・・  お祭り屋台の祭囃子がもう一度聞きたいよ・・・  俺・・・夏祭りの人間達がワイワイと楽しんでる雰囲気を見ると、心ワクワクするのに・・・  これが俺の生き甲斐なのに・・・」  カラスのバルの目からも、涙がポロポロ零れた。  「いとおしいなあ・・・」  「いとおしいなあ・・・」  「海水浴の人間の・・・」  「お祭りの人間の・・・」  「食べ残し!」「食べ残し!」  「ぎゃん!」「かぁ?」  お互い、異口同音にハモってしまったとたん、顔を見合わせた。  「泣いてるの?」  「お前も泣いてるの?」  「ちょっと砂が目に入っただけ。」  「おいらも。」  2羽は翼で目を拭うと、寄せては打ち寄せる海岸の波を見詰めていた。  ざざーーーーーん・・・  ざざーーーーーん・・・  ざざーーーーーん・・・  ざざーーーーーん・・・  「なあ、来年こそ海水浴の客が来るかなあ?」  「そしたら、また一緒にヤンチャな事出来たらなあ?」  「まあ、お互い気を付けような・・・」  「お互いって・・・新型ウイルスは人間が感染するんじゃ?」  「鳥インフルエンザ。」  「ああ、そうね。」  ざざーーーーーん・・・  ざざーーーーーん・・・  ざざーーーーーん・・・  ざざーーーーーん・・・    海水浴客の居ない真夏の海岸に、カモメとカラスが2羽。  ~ もう戻れない夏の海~  ~fin~
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