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一の怪
これは、この私 春風が思いつき、書き残してきた小説や、聞いたり、体験したりした話をまとめた怪奇譚である。
さて、一番手を飾るのは
『山の声』
これは、この私 春風が、自然観察をしていた時に聞いた話です
ある田舎町の山の中。
ある男が、山菜狩りをしていたそうです。
その山では、山菜や動物が沢山いて、自然豊かないい場所だったのですが、不思議なことに地域の人は、その山に近づかなかったとか。
男は、そんなことも知らずに山に入っていたのです。
しばらくすると、
「おーい おーい」
と言う声が聞こえてきたそうです。
男は、誰かが呼んでいるのかと思い、周りを見渡してみますが、人一人いませんでした。
「もしかしたら、誰かが崖の下に落ちたのかもしれない」
と、思い
「おーい」
と、聞き返しました。
しかし、おーいという声は止まず、ある異変が起きました。
それは、おーいと言う声が近づいて来ていること。
男は不気味に思いながらも、もう一度
「おーい」
と、聞き返してみました。
すると、男の後ろから
「おーい」
という、重々しい声が聞こえてきたのです。
男は恐怖し、急いで山を駆け降りました。
駆け降りていく間も、後ろからはおーい おーい という声が聞こえます。
しばらくすると、男が車を止めた駐車場が見えてきました。
男は急いで、車に乗ると、エンジンをかけて、アクセルを踏みました。
しかし、車は動きません。それどころか、車の前方が少しづつ浮き上がっていたのです。
「後ろに何かいる」
と、思い、恐る恐るバックミラーを見てみると
そこには、人のような顔をした黒い毛むくじゃらの怪物が、ニヤニヤ笑いながら、車の後方を持ち上げている最中でした。
男は悲鳴を上げ、再びアクセルを踏みました。
運が良かったのか、怪物は後輪に手を置きなおしていたので、タイヤは怪物の手をこすり
「ギャッ」
という声を上げて、手を放しました。
男はこの期を逃すまいと、急いでアクセルを踏み、逃げ切ったとか…
後に、聞いた話ですが、その地方では、そのような怪物のことを「声返し」と言ったそうです。
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