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「嘘でしょ?ハーゲンダッツ食べるの?」
「スプーン貰えば、食えるだろ」
「いや、高くない?」
「たまには良くね?」
そう言われてしまうと、わたしの気持ちもどんどんハーゲンダッツに引っ張られていく。
迷った結果、ハーゲンダッツのストロベリーを手に取る。桐山が手のひらをこちらに掲げたので、そこにパシンとハイタッチした。
コンビニを出て桐山が案内してくれた場所は、高台にある公園だった。
草木と土のにおいが、混ざり合って鼻の奥に届く。歩くたびに、生い茂った草が足にチクチク刺さった。
しばらく歩いているうちに、視界が開けた。
「すごい。見晴らし良い!」
ついテンションが上がって、声が大きくなってしまう。住宅街の明かりが、ささやかな夜景を作り出していた。
「な。いーだろ?」
桐山も嬉しそうに声を弾ませた。
自習するから遅くなる、と家には嘘をついてしまった。今日だけだからごめんね、お母さん、お父さん。
景色を見渡してから、桐山はすうと息を吸った。
「はーやく受験終わって欲しいー!でもまだ中学生でいたい気持ちもあるー!」
この人、素で未成年の主張を始めたぞ。
でも、公園は広いので大声を出しても近所迷惑にはならなさそうだ。
今日はとことんハメを外そう。わたしも負けじと叫んだ。
「ハワイ行きたあーい!」
「海行きてー!」
「夏休み、もっと長くしてほしいー!」
「岡村の彼女自慢がくどいー!」
「岡村ってだれー?」
「同じクラスの奴ー!」
競い合うように、声のボリュームがどんどん上がっていく。蒸し暑いこともあって、首筋に汗が伝った。
「やせたーい!」
「頭良くなりてー!」
「内申点ぜんぶ5にしてー!」
「自分で頑張れー!」
「知ってるよー!」
叫び続けたせいで、喉の奥がゼイゼイする。桐山と顔を見合わせ、笑い合った。
今日、新しいワンピースを着ていたことを突然思い出した。今なら、着てきてよかったと心から思える。
ベンチで食べたアイスクリームは、少し溶けかけていたけど、今まで食べた中で一番おいしかった。
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