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なんやかんやでその後は真面目に取り組み、9時に終わるはずの授業は9時半まで延びた。わたしと桐山が、先生を質問攻めにしてしまったからだ。
嫌な顔せずに根気よくつきあってくれた先生には、ただただ感謝の気持ちしかない。
残っている生徒は、いつのまにかわたしたち2人だけになっていた。なんとなくの流れで、一緒に塾を出る。
あたりは塗りつぶしたように真っ暗で、申し訳程度に街灯が光っていた。夜でも大ボリュームのセミの泣き声に、少し辟易してしまう。
外に出た途端、桐山は「ふぃーーー」と声を出して伸びをした。セミに共鳴するかのような声だ。
桐山は、唐突に変な行動をすることがある。知り合いと思われたくないので、ちょっと距離を取った。
「何、どうしたの?」
放っておくのもあれなので、とりあえず尋ねた。
「アイス食べてー」
「わたしも食べたい」
反射的に答えてしまい、思わず口を押さえる。桐山は、塾の真向かいにあるコンビニを指さした。
「あそこのコンビニで、アイス買って食べね?」
「買ってそのあと、どこで食べるの?」
コンビニをさした人差し指を、桐山は右へスライドさせた。
「おれ、いい場所知ってるから」
その顔は、いやに自信満々だった。わかったよと頷くと、桐山は目尻を少し下げた。
コンビニのアイスのコーナー。ずらりと並んだ光景に感嘆してしまう。カップ?コーン?アイスキャンディー?わくわくしてきた。
目線をさまよわせているわたしと反対に、桐山はすぐ決めた。
その手の中には、クッキー&クリームのカップ。
……ハーゲンダッツの。
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