鉄の鯨

2/2
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ
 「そろそろ浮上するか」  と彼から呼びかけられ、  「母船に連絡しておくわね」  と答えると、私は母船への通信を完全に切断し、いくつかのパスワードを打ち込んだ。  これでよし。   「連絡完了。あとは待つだけね」  今打ち込んだのは、試験運用時のパスワード。実践では本来絶対に使わないものだ。  すなわち、艇内の空気を外へ逃がすための、パスワード。   私は後ろから彼に近づき、後ろから抱きしめた。 「なんだよ。仕事中だぞ?」 「いいじゃない。誰も見ていないんだし」     知っているのよ。  新しい女の子のことも、この調査が終わったら私と別れようとしていることも。  でも、もう何も心配はない。  この潜水艇が地上に戻るころ、私たちは二人仲良く天国にいることだろう。  あと5分。  この艇の空気が完全に抜けるまでそれくらいだ。    それだけ待てば、あなたは永遠に私のものになる。
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!